50歳で人生変える大決断…朝ドラにも出演した木全晶子さん 26年間所属した劇団離れフリーに

黒川 裕生 黒川 裕生

兵庫県立ピッコロ劇団の俳優として長年舞台を中心に活躍し、NHKの朝ドラにもたびたび出演してきた俳優の木全晶子(きまた・あきこ)さんが、50歳になったのを機に26年間所属した同劇団を退団。2020年春からフリーでの活動をスタートさせた。5月には念願の一人芝居(全6公演)に挑戦。退団のタイミングで新型コロナウイルス禍に見舞われ、波乱含みの門出となってしまったが、大きなチャレンジを終えた今は新しい日々への期待に胸を高鳴らせているという。

ピッコロ劇団旗揚げメンバー、朝ドラにも出演

1969年生まれの52歳。神戸大学卒業後、松下電器産業(当時)勤務を経て、ピッコロ劇団には1994年の旗揚げ時から参加した。NHKの連続テレビ小説とも縁が深く、これまでの出演作には「スカーレット」や「ごちそうさん」「カーネーション」などがある。

「50歳は大きな区切り。これから先、役者の仕事をどれくらいやれるかと考えたときに、もし退団するなら今しかないと思いました。年号も変わりましたしね」

今年の4月中旬。一人芝居の会場である兵庫県伊丹市の隠れ家的ワインバー「WINNER」で、木全さんは朗らかに笑いながら、退団を決めた理由についてそう語った。

とはいえ、劇団を辞めるまではとにかく「めちゃくちゃ迷った」らしい。「劇団に所属していれば、少なくとも安心感はありますよね。公演スケジュールなど、ある程度は先が見えているのもありがたいです」。だがフリーになると、そうした“後ろ盾”のようなものは失われる。一方で、「想像できないほどの刺激がある。俳優としてきっと面白い経験ができる違いない」との予感もあった。

「どっちの選択肢もあり」と悩みに悩んだ末、最後は占いで決断。ちょうど50歳、“転機の年”に賭けてみることにしたという。

生き様に感銘…ディートリッヒがモデルの一人芝居

ところが独り立ちと同時に、コロナ禍が直撃。出演を予定していた公演が相次いで中止や延期になり、いきなり「全然動けない状態」になってしまった。それでも「以前から構想を温めていた一人芝居ならできる」と考え、脚本家としても活躍するドラァグクイーンのエスムラルダさんが作ったミュージカル短編「OVER THE WALL」に挑戦することに。演奏にピアニストの谷川賢作さんを迎え、約1時間(2部構成)のステージを作り上げた。

公演は5月下旬の3日間。小さなワインバーに、気心の知れた演劇仲間やファンが足を運んでくれた。「OVER THE WALL」は女優で歌手のマレーネ・ディートリッヒ(1901〜1992年)の生涯を題材にした作品で、ディートリッヒに扮した木全さんは妖艶かつパワフルな歌声を披露。ディートリッヒが90年の歳月を振り返りながら「人生に正解はない」と歌う姿が、迷いながらも新しい道を選んだ木全さんに重なり、大きな拍手が送られていた。

50歳で人生を変えるということ

「50歳を過ぎて進路変更するのは考えていた以上にエネルギーを消耗したし、本番が近づくにつれて『もしかして自分はとんでもなく大それたことをしてしまったのではないか』という思いにとらわれたこともありました」

公演を終えて数日後、そう振り返った木全さん。実は幼稚園の頃から歌が“トラウマ”的に苦手で、俳優になってからも人前で歌うのは「手が震えて心臓が破裂しそうになる」ほど苦痛だったという。「OVER THE WALL」ではプライドをかなぐり捨て、40数年ぶり(!)に今まで避けてきた「歌」と死ぬ気で向き合った。

そんな木全さんの覚悟が伝わったのだろうか。公演を見て「勇気をもらえた」「また見たい」と声を掛けてくれた人がいた。「自分としては『やるしかない』という思いで取り組んだ演目。それが誰かの心に響いた。芝居の原点、醍醐味のようなものにあらためて触れた気がしました」

今後も自分のペースを守りながら、俳優活動を続けていくという。

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