入場制限で減収、コロナ禍と闘う演劇界…「2.5次元」牧島輝も出演!舞台演出家に現状を聞く

北村 泰介 北村 泰介

 新型コロナウイルスの新規感染者が急増する中、小劇場をホームグラウンドとする劇団も厳しい状況に直面している。1980年代から神社の境内などのテントや小劇場の桟敷席で、すし詰めになりながら観劇してきた経験を記者なりに振り返ると、コロナ禍における演劇界の現状が気になった。座席配置だけでなく、舞台における役者間の距離感(ステージ・ディスタンス)、発声(飛沫対策)など演出面での変化はあるのだろうか。舞台「オーファンズ」(18日-23日、東京・中野ザ・ポケット)で演出を務めるシライケイタ氏に話を聞いた。

 シライ氏は大学在学中に故蜷川幸雄氏が演出した「ロミオとジュリエット」で舞台俳優デビュー。2010年旗揚げの劇団「温泉ドラゴン」で、第2回公演から演出を手掛ける。13年には文化庁・一般社団法人日本演出者協会主催による「若手演出家コンクール」で優秀賞と観客賞、17年には第25回読売演劇大賞の杉村春子賞を受賞した。今回は所属事務所「A4」の第1回プロデュース公演となる。

 コロナ禍に伴って演出が変わることはないという。ただ、客席の光景は大きく変わった。シライ氏は「最前列から2列までお客さんは入れません。座席も1つ飛ばしで客席は半分になります」と説明。180席の会場で今回使用するのは90席。同氏は「黒字にするのは難しいが、(公演を)やらないと演劇人として生きることをやめることになる。やり続けるしかない」と腹をくくる。

 コロナ禍における表現活動で顕著になったのは、演劇に限らず、音楽のライブなどでも「配信」に活路を見出したこと。だが、「オーファンズ」では配信がない。シライ氏は「海外の翻訳作品なので権利が厳しく、映像化ができないからです。そこで、この規模の会場では4000円くらいのチケット料金を今回は7800円とし、後はパンフレットやTシャツなど物販でカバーします。それでも客席は半分なので減収です」と明かした。

 一方で、シライ氏は配信に可能性を見出す。「これまで遠くて来られなかった地方や海外の人にも見てもらえる。100人キャパの会場から発信して、1万人の観客が見ることも理論上は可能なので、新しい演劇の可能性につながっていくんじゃないか」と期待を込めた。

 今回の公演では「2.5次元×小劇場×アングラの三つ巴企画」を掲げる。漫画やアニメ、ゲームなどを原作・原案とした舞台で、若者に支持されている「2.5次元ミュージカル」から「刀剣乱舞」などの人気俳優・牧島輝(ひかる)が出演。小劇場界からシライの盟友で劇団温泉ドラゴンの中心的俳優・いわいのふ健、アングラ界から唐十郎率いる劇団唐組の看板役者・稲荷卓央も加わり、3人による異種格闘技的な化学反応が注目される。

 シライ氏は「2.5次元というザ・エンターテインメントの若手・牧島君の背中を、出自の違う小劇場とアングラの役者が押す。世界から孤立した兄弟がハロルドという侵入者の出現によって、一つの価値観が崩壊し、新たな世界に出会っていくというテーマはコロナで揺れ動く現代に近いものがあり、今、上演すべき作品であると考えて企画しました」と語る。

 「演劇は高い生産性や経済を大きく回すわけじゃないが、人間のぬくもりや生きて行く尊厳を再認識できるもの。既に稽古場ではそう感じることのできる空気が流れていて、それを舞台でお見せしたいです」。シライ氏は思いを込めた。

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