落ち込んだ気持ちを支えてくれる歌を「抱き枕ソング」と名付けて紹介する企画に、僧侶らでつくるNPO法人「京都自死・自殺相談センター Sotto(そっと)」(京都市下京区)が取り組んでいる。つらく頑張れない時も、自分の気持ちを代弁するような歌詞が、すっと心を軽くする「歌の力」に着目。眠れない夜に寄り添う一曲を共有し合うことで、「心の居場所づくりの手助けになるのではないか」と期待している。
企画名は「がんばれないときにそっと抱いていたい私だけの抱き枕Song」。同センターのスタッフがカラオケに行った際、「死と向き合った曲は意外と多い」と気付いたことがきっかけといい、4月下旬から会員制交流サイト「ツイッター」で募集を始めた。
募るのは「つらく頑張れない時に聞きたくなる曲」で、これまでに寄せられたのは約40曲。中島みゆきさんの「命の別名」や、さだまさしさんの「風に立つライオン」、AIさん「Story」、など年代もジャンルも多彩だ。
谷村有美さんの「愛する勇気」や米津玄師さんの「海の幽霊」、レミオロメン、菅田将暉さん、ヒートウェイヴ、水前寺清子さん、藤井風さんらの曲もあり、曲調も静かな曲からロック調まで幅広い。
それぞれ「私にとっての応援歌」(ナオト・インティライミさんの「未来へ」)、「考えるのはやめて、もうちょっとやってみようという気持ちになれる」(LiSAさんの「ジェットロケット」)など曲にまつわるエピソードも添えられている。
中には「弱っている所をさすってもらったような感覚だった」(ザ・ブルーハーツの「チューインガムをかみながら」)、「ちゃんと分かってくれる歌がここにあったのかと涙が出た」(ハナレグミさんの「ぼくはきみのともだち」)といったコメントも見られる。
連日、投稿された曲について同センタースタッフが語り合う音声の配信も行い「違う解釈が聞けて、もっと曲を好きになった」という反応もあるという。
誰もが知るヒット曲もあるが「アルバムの6、7曲目という感じの曲が多いかもしれない」と企画に携わる同センター居場所づくり委員長の小坂興道さん(45)は指摘する。
小坂さんは「その時の心情に合ったり、人生のエピソードに絡んで何度も聴く曲をみんな持っていると感じた」と集まった曲への感想を語る。「『そろそろ前を向こう』と言われるのが嫌な時も、歌で『がんばろうぜ』と言われたら、元気をもらえることがある。歌にはそんな力があるのではないか」と分析。「自分が大事にしてきた曲が、誰かの役に立つかもしれないと想像してほしい」と投稿を呼び掛けている。
広報委員長の金子宗孝さん(39)は、「自死を考えるほどではない人にも心に余裕があるうちにセンターの存在を知ってもらうことにつながれば」と企画に込めた願いを語る。
金子さんは「知らなかった曲でも、聴くと『なるほど、いいやん』と(心に)入ってくる」という。「自分に響いたり、自分の気持ちをくんでくれたりする曲があると気づけることが、何かの助けやヒントにつながることもあり得るのではないか」と話していた。
曲は、同センターのツイッターなどから5月末まで投稿を呼び掛けている。センターは電話=075(365)1616、金曜と土曜の午後7時から翌午前1時まで=やメールなどで相談に対応している。