京都市電の保存断念に失望の声も 財政難で、元案内所の車両は譲渡先を募集へ

浅井 佳穂 浅井 佳穂

 京都市は、1950年製造の旧市電車両を活用した岡崎公園(左京区)の案内所「岡崎・市電コンシェルジュ」の閉鎖を決めた。財政難に陥る中、車両の老朽化による修繕費の確保が難しくなったためで、無償譲渡先を公募し、公園から撤去する方針。鉄道ファンからは市へ失望の声が広がる。

 使われているのは市電車両1860型。77年の市電河原町線の廃止に伴い、大宮交通公園(北区)に移され、子ども向け図書館として利用されていたが、岡崎地域活性化の一環として現在地に移された。

 案内所は2015年に開設された。16年度には約5700人が訪れたが、18年度は訪問者が約4500人へと減少。新型コロナウイルスの感染拡大で昨年4月7日以降は閉所している。市は「案内所としての役割は終えた」としている。

 市によると、車両は雨漏りや木製部分の傷みが激しい状態。メンテナンスに年間数十万円が必要とする。財政難の市は保存や展示を断念した。

 市電の置かれる岡崎公園一帯は国の重要文化的景観「京都岡崎の文化的景観」に指定されている。景観に詳しい京都建築専門学校非常勤講師の本間智希さん(34)は「撤去は非常にショックだ。岡崎地域は京都の近代化の中心地で、市電は近代化の一つの象徴。撤去で岡崎らしさを物語るストーリーの一つがなくなることは残念だ」と話す。

 京都の鉄道史に詳しい歯科衛生士北川ちひろさん(35)も「岡崎公園に市電を移した時点で屋根を設置しておらず、市は老朽化を深刻に捉えていなかったのではないか」と指摘。「費用がかかるなら(ネットで資金を募る)クラウドファンディングなどの手法も考慮すべきだ。梅小路公園(下京区)に置かれている市電も同じような道を歩むのではないかと、危機感を覚える」とする。

 市は今後、車両の保存展示を継続してくれる譲渡先を探す。条件は、市電の姿を残した状態で日本国内での保存▽最低5年は展示▽譲渡は無償だが移設経費は譲渡希望者の負担▽今年7月中をめどに搬出。市プロジェクト推進室は「現存する市電車両は貴重だが、現在の市では維持や修繕は難しく、やむなく譲渡することにした」と理解を求めている。

 公募期間は17~31日。問い合わせは同室075(222)4178。

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