コロナ禍から丸1年、もう時間がない! 疲弊する大学合唱団の「いま」を現場に聞いた

國松 珠実 國松 珠実

新型コロナの影響を受け続ける音楽活動。その影響は、2度目のコロナ禍の春を迎える学生たちにも及んでいる。なかでも密になって歌う大学合唱団の中には、存続すら危ぶまれる団体が増えている。

今年で創団70周年を迎える男声合唱団「甲南大学グリークラブ」は、部員が100名ほどいた時期もあったが最近は10~20人で推移。少人数の味を生かしたおしゃれな演奏を得意とする。しかしこの春ついに実質0人に。このクラブを30年以上指導し、常任指揮者として間近で学生たちを見続けてきた西牧潤さんに話を聞いた。

 コロナ禍に翻弄される課外活動

――西牧さんは甲南大学グリークラブ(以下、甲南グリー)のご出身ですね。

在学中は歌い手と指揮者、両方で活動しました。卒業後10年ほどして、あるきっかけで甲南グリーを指揮することになり、以来かかわらせてもらっています。

――甲南グリーが0人になった経緯は?

昨年はコロナ禍で新入生勧誘や演奏活動ができないまま、この春4回生4人が卒業。実は彼ら以外に合唱経験のある後輩が2人いたのですが退部し、現在女子マネージャー兼会計係が1人のみです。大学のクラブの規定で、今年度中にあと2人の部員を獲得すれば存続可能ですが、現在は歌い手がいません。

――もともと部員数は減っていたのですね。

一昨年は勧誘がうまくいかず、次こそはと意気込んでいた昨春、新型コロナにみまわれました。学業や就活もあってクラブ活動にまで気が回らなかった。私も学生にたびたび声をかけ、新たな活動の提案もしましたが、彼らの気持ちを引き上げられませんでした。

――西牧さんは顧問の先生、ではないのですか?

私はあくまで学生から依頼され指導する立場です。高校や中学のクラブは、顧問の先生を中心に活動しますが、大学は学生が主体。それが良いのですが、大学生だと4年間というリミットがあります。その間に先輩や後輩、同期生との間で楽しみや苦労、友情が育まれ、後輩に受け継がれるものがあって、それがその大学のクラブの色になる。いったん途切れると復活が難しいですね。

――今後の予定は?

甲南大学は共学なので、混声合唱団として再出発することになりました。他にも熱心なOBと協力しつつ、現在すべての学年を対象に部員募集中! オンラインでの新歓活動で、いま入部検討中の学生が1人いますよ。またこの阪神間では、同じく活動がままならない大学合唱団が多い。SNSで連携して情報交換し、時期が来たら「体験練習会」など一緒に歌う機会を設けたいですね。

 現役学生はどうしている?

同じく阪神間で、今年創団65周年を迎える女子大の現役コーラス部員で、3回生のYさんにも話を聞いた。現在部員は4人だが、うち3人はこの春入ったばかりだ。

――部員の構成は?

私のほかに4回生1人と、1回生が2人。みんなこの春の入部で、全員そろって対面したことはありません。

――昨年の活動は?

昨年春から1年間一切していません。そのためこの春卒業した4回生は、1年間歌わないままでした。私も1回生だった1年間歌っただけです。

――今は?

この4月から徐々に活動を始めました。幸い技術顧問の先生と、大勢のOGがいらっしゃるので心強いです。今は先生とOGの代表1人と私とでSNSで情報交換し合い、活動のアイデアやアドバイスをいただいています。それに4月は2日間、大学が対面での新勧活動の場を設けてくれ、おかげで1回生が入部しました。5月も2度、オンラインでの新勧を行います。ただ、現在大学から課外活動は止められているので、一緒に歌うのはまだ先ですね。

――Yさんは合唱経験者ですか?

いえ。私は大学で始めました。歌が好きで、クラブの雰囲気も好きでコーラス部に入りましたが、部員への歌の指導はとても…。ぜひ顧問の先生にお願いしたいのですが、今の状況では外部の方を学内へお招きもできません。

――他大学との連携はされていますか?

他大学のOBOGの方々が交流目的のSNSを立ち上げ、そこで他大学の様子や運営のアドバイスをもらっています。私が1回生のときはセミナーや交流会、その前年はジョイントコンサートなどで親睦を深めたようですが、今はSNSがその代わりです。

 見続けられる大人が見放さないこと

今回紹介した大学合唱団とは対照的に、この春20名の新入生部員が入った大学合唱団もあるという。そうした団の多くは、もともと人数が充実していたそうだ。仲間さえいれば、本来の活動が厳しくても知恵を絞り、できる形で存続できる。しかし少人数のクラブは、活動以前に運営が難しく疲弊する。

西牧さんは「卒業後も在校生の面倒を見ようという奇特なOBOGは少ない。結局いま少人数合唱団を支えられるのは、私のように継続してみられる立場の大人でしょう」と語る。

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