場数を多く経験して育てるしかなかったインタビュースキルが、VRで学べるシミュレーターが実現した。インタビュー経験の浅いライターや企業の広報部門から熱い視線が注がれている。
場数を踏む機会が激減してライターが育ちにくい
ひとくちに「ライター」といっても、活動スタイルやコンテンツを提供する媒体はさまざま。でも、やはり生身の人間と直接会って話を聞き、原稿にまとめるインタビュー記事は、物書きとして最低限身につけておきたいスキルのひとつだ。
インタビュースキルを習得するには、とにかく場数を踏んで慣れるしかないが、経験の浅い新人に次々とインタビュー案件の依頼が来ることはない。ベテランライターの取材に同行させてもらえる人脈があればまだ恵まれているほうだが、リモート取材や電話取材が増えた今では、実地で学ぶ機会は激減している。
仕事を発注する側は当然に「経験者」を求めるが、インタビュー未経験の新人は経験する機会すら与えられないため、いつまでたっても経験者になれないという悪循環が生じているのだ。
そのような状況を憂いたのが、ライタープロダクションサービス「フリーライターのよりどころ」を提供する株式会社YOSCA(ヨスカ)代表取締役の宮嵜幸志氏で、VR(Virtual Reality)の技術を応用したインタビューシミュレーターを開発した。それを本番さながらのインタビューをシミュレートできる「VRで学ぶインタビュートレーニング講座」として、インタビュースキルを体系的に学べるよう教材化したのである。
現場で遭遇しそうな6つのシチュエーションを用意
VRによるシミュレートには、どのような効果が期待できるのだろうか。
「通常の講義形式よりスピーディー且つ効率的にスキルを習得できます。国際会計事務所のPwC(※)によると、学習への集中度がEラーニングの4倍、学習速度は講義形式の4倍、受講したあとの自信は275%も増加するといわれています」
※(出典)PwCがVRトレーニングの有用性を報告、学習速度や集中力は4倍以上https://www.moguravr.com/pwc-vr-training-report/
また、ゴーグルで実写の3D動画を視聴するので、視界が完全にVRの世界になる。そのため「没入感」は講義形式の比ではなく、あたかも自分がインタビューの現場にいるような感覚になれる。
この講座は、まず2D動画でインタビューの基本、インタビューに臨む際の事前準備、インタビューの実践テクニック、記事の書き方を学んでから、最終ステップとしてVRで3D動画を視聴しながら、現場で実際に遭遇しがちな6つのシチュエーションを「ライター視点」と「同行アシスタント視点」の2パターンで体験できる内容になっている。
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◆現場で遭遇しがちな6つのシチュエーション
ケース1〔取材相手が取材に慣れていない〕
ケース2〔取材相手が取材慣れしている〕
ケース3〔取材相手が無口〕
ケース4〔取材相手がおしゃべり〕
ケース5〔取材時間が急遽短くなってしまった〕
ケース6〔取材相手を不快にさせてしまった〕
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筆者はケース6〔取材相手を不快にさせてしまった〕の、同行アシスタント視点を体験してみた。
インタビュアーが取材相手のホームページで公開されている情報について質問したために、相手が「ホームページに出ていますよね」と不快感をあらわにする。表現こそ遠回しだが、事実上「事前のリサーチが足りない。本気で取り組んでいるのですか!」と叱責されているわけで、ライターとしては想像すらしたくない状況だ。VRと分かっていても冷や汗が出そうだった。
VRではその場の収め方として良い例と悪い例の両方を視聴できるから、あるていど経験を積んだライターでも良い勉強になるのではないだろうか。
リリースされて日が浅いため、この講座で学んでデビューしたライターはまだいないそうだが、現場経験の不足を補う機能は備えていると感じた。
ところで、現場で遭遇しがちなシチュエーションは、今後まだまだ充実していくのだろうか。
「コンテンツは今後も追加したいと考えています。例えば、プロライターのリアルなインタビュー現場のシーンをコンテンツにできたらと考えています」
今後の展開も訊いてみた。
「ライターや編集者に限らず企業の広報部門や営業マンなど、インタビュースキルが求められる職種は多いので、多様な方にサービスを知ってもらえるよう販促をしていきたいと思います」
企業研修にも活用される可能性があり、これからどのように進化していくのかが注目される。
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▽VRで学ぶインタビュートレーニング講座
https://writercareer.online/vr-interview/