「途中」なのに終点―。大津市北部で走っていた「途中」行きのバス路線が、12日で廃止された。沿線人口の減少で乗客が減り、赤字運行が続いていた。珍名の行き先として、バスファンから惜しむ声が上がる一方、住民は将来の地域の足を確保できるか不安を抱えている。
なんで「途中」っていう地名があるの?
廃止されたのは、JR湖西線の堅田駅(大津市真野一丁目)と大津市伊香立途中町の約10・3キロを結ぶ路線。1日1・5往復運行で、「終点なのに『途中』という名前のバス停」として、テレビ番組で取り上げられたこともある。
途中町は、京都市に近い山間部にあり、若狭と京都を結ぶ「鯖街道」の一部で、途中越は難所の一つだった。大津市歴史博物館などによると、「途中」の名は、平安時代の僧相応和尚(かしょう)が近くの葛川明王院で修行していた時、「ここは明王院と比叡山の途中か」と住民に尋ねたとの伝説にちなむ。
ラストラン惜しみ、駆けつけるファンも
運行する江若交通(大津市)によると、沿線人口の減少で、伊香立向在地町のバス停以降の乗客は1便当たり1~2人に落ち込んでいた。市の補助金を受けていたが赤字は解消できず、「維持は困難」として廃止を決めた。
12日の最終運行ではバスファンら数人が行先表示や走る様子を写真に収めた。介護職の男性(39)=京都府宇治市=は「集まったファンも少なく、静かなラストランでしたね」と語った。
バスがなくなり…今後は
大津市北部では、ほかにも伊香立、葛川、旧志賀町を走る4系統が12日に運行を終了し、仰木地区の1系統が31日で廃止される。高齢化が進む中、移動手段の確保が課題となっている。
大津市は4月から、予約(デマンド)型の乗り合いタクシーを社会実験として伊香立、葛川、仰木の3地区で運行する。一方、伊香立地区の住民でつくる「粋に生きよう会」は4年前から、予約制で高齢者向けの送迎サービスを実施。集落内の各停留所と駅やスーパー、病院などを車で結ぶ。
しかし、運転手11人は全員ボランティアで高齢者が多い。代表の河合吉清さん(78)は「運転手の確保が一番の課題。いつまで運行を続けられるか」と語る。
「空気を乗せて走っていた」皮肉も
途中町の住民からは「本数が少なく、もう何年も利用していない」「空気を乗せて走っていた」との声が聞かれた。ただ、途中バス停近くに住む女性(59)は、路線廃止は仕方ないとしつつも「将来自分が運転できなくなったとき、移動手段が残っているのか」と不安をもらした。
途中バス停はなくなるわけではない。これからは、JR堅田駅と大津市葛川細川町を結ぶ江若バス51系統と、京阪出町柳駅と高島市朽木を結ぶ京都バス10系統が引き続き停まる(いずれも土日祝日のみ運行、冬季は運休)。