配偶者居住権って知ってる? 残された配偶者に「住む権利」のみを相続できる制度…しかし落とし穴に注意

北御門 孝 北御門 孝
相続が発生した際に自宅の所有権は他の相続人に渡すが、配偶者は住む権利のみを相続できるようになった(eelnosiva/stock.adobe.com)
相続が発生した際に自宅の所有権は他の相続人に渡すが、配偶者は住む権利のみを相続できるようになった(eelnosiva/stock.adobe.com)

「配偶者居住権」というのをご存知だろうか。聞きなれない方もいるかもしれないが、2020(令和2)年4月以降の相続について認められている新しい制度だ。(民法第1028条)相続が発生した際に自宅の所有権は他の相続人に渡すが、配偶者は住む権利のみを相続できるようになった。当然、所有権より評価額は低くなるから、その分だけ生活のための資金を多く相続することができる。法定相続分通りの相続を前提にすると自宅の所有権を相続してしまうとそれだけで法定相続分を満たしてしまいかねず、生活資金の確保が難しいケースなどを救済するためといわれている。

ただ、目的はそれだけではなさそうだ。一例をあげてご説明すると、先妻には実子がいるが、後妻には子がいないケースを考えてみたい。後妻の相続後の安定した生活を考え、自宅に引き続き住めるようにと後妻に自宅(土地建物)を相続させたとしよう。将来、二次相続(後妻の相続)が起きたときにこの自宅はどうなるか。後妻と実子とのあいだで養子縁組でもしていれば別だが、通常実子には相続権がない。もし、後妻に兄弟姉妹がいれば、この場合そちらのほうに自宅は相続されてしまう。

もちろん、後妻が実子のために遺言を残してくれていれば遺贈できるわけだが、果たしてそううまくいくかどうかわからない。そこでこの「配偶者居住権」を活用する。所有権は実子に相続させるが、居住権のみを後妻に相続させることが可能になる。将来、後妻の「配偶者居住権」が消滅した段階(二次相続)で完全な所有権が実子に移ることになる。

ただし、落とし穴も考えられる。後妻が終身この自宅に住み続けるだろうか。望むと望まざるとに関わらず、施設に入らざるを得ないような場合も考えられる。本来ならこの自宅を売却して換金し、施設に入所するための資金にしたかったかもしれない。配偶者居住権の譲渡は不可である。配偶者居住権を放棄して、所有権を得た子が売却することは可能だが、その場合は子の資金になってしまう。また、認知症対策も考えておかなければならない。本人は法律的な行為ができなくなるからだ。

こういった問題点をクリアできる方法が「家族信託」だ。夫が存命のうちに財産を実子に託す信託契約を結ぶ。当初は夫本人が受益者(利益を享受する人)だが、相続が発生したら後妻に受益者が移る。そして二次相続が起きた時点で実子が残余財産を相続する。

「家族信託」のメリットは、夫や後妻が認知症になっても実子が売却したり第三者に賃貸したりが可能であること。(資金は受益者のために使う前提)また、当初から契約の内容で後妻の親族には財産が渡らないように決めておけることだ。こういった内容の「家族信託契約」を夫と実子のあいだで結んでおけば、何はともあれ夫が一番安心できるわけである。「家族信託」は将来の不安を取り除くために行う対策と考える。

「配偶者居住権」には相続税の節税のメリット(別の機会に説明する)があるといわれるが、様々な想定しうるケースに対応でき、将来に対し安心できるのは「家族信託」ではないか。

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