自粛警察か!? 新宿の住宅街で見た異様な光景 店を覆うブルーシートと貼り紙の真相とは

上村 慎太郎 上村 慎太郎
おどろおどろしい外観に怖じ気づく筆者
おどろおどろしい外観に怖じ気づく筆者

 1都3県では緊急事態宣言が再延長された。営業時間の短縮要請は飲食店にとっては死活問題だろう。その一方で不公平とも思われる協力金の一律6万円の給付問題も横たわったまま。コロナ禍で世の中は殺伐とするばかり。そんなある日の朝、私は東京・新宿で異様な光景を目撃してしまった。その真相を探ってみると…。

 そもそも自粛要請や営業時間短縮要請は、国民が一丸となってコロナの終息を目指そうという意趣であるが、ある意味社会主義的な手法のため、個人の自由や権利を主張し、受け入れたくないと考える方もいる。

 自粛しない自由・権利を行使する人々に対し、それを批判する人々。公共交通機関で強硬にマスクを付けずに問題を起こす人がいれば、営業している飲食店などに嫌がらせをする「自粛警察」など、このコロナ禍においてはとにかくギスギスした話題が目に付く。

 そんな嫌なご時世、朝の東京・新宿を歩いていた私は異様な雰囲気を醸し出している建物に出くわした。場所は駅や大通りから少しばかり中に入った住宅街の一角。これは一体何なのか?写真を見ていただければ、その不気味さは一目瞭然だろう。店全体をスッポリと覆うブルーシート、それを横断するように貼られた立入禁止のテープ、そして手書きやプリントされた貼り紙の数々。そこには「ジシュク」「緊急事態宣言」「通報」「県外」などの文字が並ぶ。ああ、ついにここまで来たか…と、実際目の当たりにすると驚きは隠せなかった。

 しかし、よくよく見ると何かおかしいことに気付く。「ジシュク」と書かれた貼り紙の文言が「オミセ アケロ ジシュク スルナ」となっているではないか。他を見るとこれまた驚き。「次開いていなかったら通報します」「歓迎 特に県外から」などすべてイメージと反対の文言になっているのだ!

 どうにか店側に話を聞きたいと思うも店は開いていない。すぐにインターネットを開き、SNSで店舗のアカウントを探し当て投稿をたどると、事の真相が少しずつ見えてきた。3月8日の投稿には「本日より14時から24時までの営業になります。なお、外装を変えてるためビックリすると思いますが」とあった。

 ならば、その時間に行くしかない。そう考えた私はさっそく、その日の夜に店に向かった。住宅街ゆえ実に静かだ。店の前に来た私は少々戸惑う。見た目はこの日朝と同じだが、赤色灯がついていて、さらにおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。意を決してブルーシートをめくると扉が現れた。

 ガラス越しに見る店内は非常に暗くてやっているのかどうかわからないレベルだが、人の動きを確認できたので入ってみることに。店内は非常に暗いが目が慣れると良い雰囲気のバーだとわかる。席はカウンターのみの4~5席。マスクをしたバーテンダー1人と静かに飲む先客が1人。バーテンダーに手の消毒用アルコールを吹きつけてもらい、クラフトジンに特化しているという店ということでジントニックを頼む。

 程なく先客は帰り、バーテンダーとタイマンになった私はチャンスと思いつつもなかなか切り出すタイミングを掴めない。SNSに「TVの取材を断った」と書いてあるのを見ていたからだ。他の客が来たらタイミングを失う。そう感じた私は、名刺を渡し話を切り出した。30代前半に見えるバーテンダーは店のオーナーだった。

 「この外観はお店の仕掛けですよね?」と尋ねると「はい」と答える。「一見、自粛警察の仕業かと思いました」と話すと、マスク越しにも笑みが見て取れる。「立ち止まる人も多く、周りは驚いていました」と屈託のない笑顔で話す。

 「なぜ、このような仕掛けを?」と質問すると「いま、需要と供給のバランスがおかしいと感じまして。飲みに行きたい人はいるが、店が開いてない。だから禁酒法時代の隠れ家的なイメージです」と言う。

 「政府や自治体のコロナ政策に不満があり、それに対してのパフォーマンスなのですか?」

 そうストレートに質問してみると彼は「政治的意図は全くありません。要請に応じて協力金を1日6万円も貰えたら大儲けです。貰いすぎている気がします。でも(要請延長が決まった)3月8日からは(営業しているので)もう申請しません」と返してくれた。実際、4坪しかなく4〜5席しかないバーで20時から0時までの時間で6万円の利益を出すのは難しいだろう。自粛した方が得なのに彼はそれを選ばないという。

 ちなみに、この外観は自分で作ったということだ。「材料を買っている時が一番ワクワクしましたね。どうするか想像しながら。文面も実際に自粛警察に貼られたものをネットで探してパロディにしました」。彼の中では一種の遊び心なのだろう。その後、客は1人来たきりだった。

 帰り道、駅前では大型・中型の居酒屋が20時以降も堂々と営業し、客が溢れていた。寒さに身を縮めながら春の訪れとコロナ終息を祈らずにはいられなかった。

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