闘病中の子猫のそばに寄り添う「聖母猫」 ハムスターにも毛繕い…種を超えた深い愛情の持ち主

渡辺 晴子 渡辺 晴子

腎不全などで闘病している子猫のそばにいつも寄り添う1匹の猫がいます。「ザビー」というサバ柄の雌です。奈良県内で動物保護活動をしているボランティアの中川真由紀さんが4年ほど前に保護しました。

ザビ―ちゃんは猫だけではなく、これまでハムスターやウサギなどたくさんの保護された動物たちと触れ合ってきました。ハムスターにも毛繕いをするなど種を超えた深い愛情の持ち主。まるで“聖母”のような猫だといいます。

“聖母猫”のザビー…やせこけた子猫だった

ザビーちゃんは今、4歳くらい。2016年10月、道ばたで動けなくなりうずくまっていたところを中川さんの友人に保護されたあと、中川さんの元へ。保護当時は、骨と皮ばかりのやせこけた子猫だったそうです。

動物病院に連れて行くと、ザビーちゃんのお腹にはたくさんの虫がいて、栄養を取られていました。しかし、1年ほど治療を続けたところ美猫に成長。ただ、里親さんがなかなか見つからず、そのまま中川さんのところに留まることになったのです。

“新入り”の動物たちに毛繕い 母親のような存在に

やがて、ザビーちゃんは中川さんが保護した動物たちの面倒を見るお母さんのような存在となりました。“新入り”の動物がやってくると、すぐさま毛繕いをするなど真っ先に受け入れる仕草をします。それを傍らで見ていた先住の動物たちも、自然と“新入り”を受け入れるようになったそうです。

また、他の動物が“新入り”に意地悪しようとすると、ザビーちゃんは遠慮なく猫パンチを食らわします。出産経験のないザビーちゃんですが、“新入り”の動物たちに対してはまるで自分の子どもを守る母親のように振る舞うといいます。

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保護した子猫に腎不全などが発覚…闘病生活へ

昨年10月上旬ごろ、知人が保護したという子猫を中川さんが預かることになりました。子猫はキジ白の男の子。滋賀県内のお寺をさまよっていたそうです。周りに親猫がいなかったことから、捨てられていたようでした。「レノン」と名付けられ、引き取った当時は室内を走り回ったり、他の猫たちのフードを片っ端から食べたりするほどの元気な猫だったといいます。

しかし、今年2月上旬ごろ、生後6カ月ほどになったレノンくんの去勢手術をするため、動物病院に連れて行ったときのこと。手術を終えたあと、血液検査の結果が思わしくなく、獣医師から「腎不全の可能性が高く、腹水も溜まっているようだ」と告げられました。実は、診察した当時、レノンくんは脱水や貧血がひどく、食欲があまりなかったといいます。

ただ、この病院では治療法の具体的な提案などもなく、途方にくれたという中川さん。そこで、レノンくんに合った治療法を探そうと、セカンドオピニオンを求めて別の病院へ足を運びました。

詳しく検査をしたところ、やはり腎不全と診断。獣医師から「生まれつき腎臓の形が悪かったと思われます」と言われたそうです。このほか、猫伝染性腹膜炎(FIP)の抗体検査も受け、発症する可能性がある状態とも指摘されました。

中川さんは「超音波(エコー)検査で内臓を見たのですが、レノンの腎臓はいびつな形をしてました。先天的なもののようです。獣医師からは『完治はしない。治療や薬などがあっても、それらが完治に向けて効くものではない』と、言われました。余命も老猫ちゃんならある程度分かってもレノンは子猫。他の臓器が元気なだけに今後どうなるかは全く分からないようです」と話します。

さらに、レノンくんがFIPの可能性があると聞いて「病院で大泣きしてしまいました。それは、私が初めて保護猫の里親になった子猫がFIPを発症して苦しみながら死んでいったからです…何でまたレノンまで…と悔しいやら救えない無力さやらで頭の中が真っ白になりました」。

横たわるレノンの首元に顔をうずめるザビー…“手当て”をしているようだった

病院から帰るといろいろな検査を受けて疲れたのか、その場で倒れてしまったというレノンくん。中川さんがレノンくんをかごの中に横たえると猫たちが集まってきたそうです。その中でザビーちゃんは真っ先にレノンくんの首元に顔をうずめました。しばらくじっとしていたといいます。

「レノンの首元に顔をうずめるなんて。こんなポーズは見たことがありませんでした。ザビーの仕草を見ていたら、まるでレノンの“手当て”をしているかのように感じました」と中川さん。

「そんなザビーの必死な様子を目の当たりにして、病院で何もしてやれないと泣いていた自分がすごく恥ずかしくなりました。命に限りがあることを悔やむ前に1日1日をしっかりと共に生きていく、レノンを支えていくことが大事なんだと、そのとき思い知らされたんです」と振り返ります。

この日を境にレノンくんは少し食欲を取り戻しました。今はフードをゆっくりと時間をかけて食べています。ただ、腎臓の病気などが原因なのか、摂取した栄養も全ておしっこで流れ出てしまうとのこと。そのため、点滴を打ちに通院。体重が少し減ってはいるものの、腎臓、胆のう、貧血のお薬を飲みながらサプリなどで栄養を補ってるそうです。そんな闘病中のレノンくんは、ザビーちゃんをはじめ“仲間”の猫たちとともに穏やかな日々を過ごしているといいます。

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猫6匹とジュウシマツ1羽の暮らし 「異種多頭生活を送れるのも、ザビーのおかげ」

現在、中川さんのお宅にはザビーちゃんを含め成猫5匹とレノンくんの猫6匹と、ジュウシマツが1羽いるそうです。これまでの保護活動を振り返りながら、中川さんは「保護されてここにやってきた動物たちは『仲間』であって、新しい家族・里親さんを見つけるまで、あるいはお空に帰るまで、私がお世話しようと心に決めています。ただ、ザビーがお空に帰ったら、新たに保護された子については受け入れないつもりです。

今、異種多頭生活を送れるのも、分け隔てなく愛情を注ぐザビーが他の子たちをお世話してくれるから…私にとってもザビーは心の支えです。これからどの子がいつどんな形でお別れする時が来てもけっして悔やまないように、1日を一生の気持ちで向き合っていきたいと思います」。

【猫伝染性腹膜炎(FIP)】特に子猫の命に関わる重篤な疾患。確定診断が困難で、効果的な治療がわかっておらず、若くして発症し、発症した場合は亡くなる可能性が非常に高いという。多くは1歳未満の子猫で発症。発熱、沈うつ、食欲不振、体重減少、黄疸、腹水でおなかがふくれるなどの症状が起こる。「猫伝染性腹膜炎ウイルス」が原因で、「猫腸コロナウイルス」が変異を起こして強毒化したもの。

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