「いらない」と捨てられ怯えていた猫に感じた“運命”…夫婦の絆を深めてくれる、かけがえのない家族に

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

1歳半のラブーンくんは、まだまだ甘えたい盛り。そのせいか、うんこをした際に砂をかけません。デーンと置いたまま。砂をかけるのは、なぜか4歳のアイルちゃんの役目です。せっせとアイルちゃんが砂をかけている様子を、ラブーンくんはトイレの外からぽやっと眺めているのだとか。

そんな2匹の様子を微笑ましく見つめるSさん夫妻は、20代の若夫婦。2匹を迎えてから、笑顔が絶えないのだそう。

普段の2匹は追いかけっこをしたり一緒に寝たりと、とても仲の良い猫。同じブリティッシュショートヘアーということ以上に、Sさん夫妻の元にやって来るまでの境遇がとても似ています。

2匹とも繁殖場から「いらない」といわれた子たちなのです。

アイルちゃんは暗く狭い場所で子猫を産むだけの子で、ラブーンくんは上顎が出ているいわゆる「出っ歯」のため商品価値ゼロ。だから「いらない」。この子たちを保護したのが、大阪市淀川区十三本町にある保護猫カフェ【ねこの木】です。

ねこの木では「いらない」と言われた猫たちに、ずっとの家を見つけてもらうための活動を続けています。そうとは知らず、当時近くに住んでいたSさん夫妻は何とはなしに訪れました。

そこにいたのは、当時2歳のアイルちゃん。Sさん夫妻はアイルちゃんを一目見た時から運命を感じたと言います。猫なのに猫が嫌いでビクビクおどおど怯える姿に、「私たちが守ってあげなければ」と強く思ったとのこと。

すぐ連れて帰りたいとねこの木に交渉をしますが、店の規約で3回以上通ってもらわないと譲渡不可。それならばとSさんはいったん店を出て、その日2回目の来店です。これにはねこの木の店長もびっくり。

その次の次の日にも来店し、短期間で3回来店というハードルをクリア。店長と面談もし、晴れてアイルちゃんはSさん夫妻のもとに迎えられました。

一度は人間に「いらない」と捨てられたアイルちゃんが、今度は「必要としてほしい」と人間に願われたのです。

Sさん夫妻に温かく迎えられたアイルちゃんは、夫妻の愛情を一身に受け怯えた様子が徐々になくなっていきます。Sさん夫妻も些細なことで大喧嘩をしていたのが、ほとんどなくなったんですって。喧嘩をしてもアイルちゃんを抱っこしてベッドに寝ころべば、カッカしていたのがすうっと消えていくのだそう。

そんな2人と1匹の生活が3カ月ほど続いたある日、Sさんがねこの木を訪れると直観的にアイルちゃんと仲良くできそうな子が保護されていました。その子こそ、ラブーンくんです。まだ生後半年ほどの子猫で、人懐っこくとてもやんちゃ。アイルちゃんと性格は正反対です。

Sさん夫妻はラブーンくんも譲り受け、アイルちゃんと引き合わせます。その時に、思いもよらぬ出来事が…。アイルちゃんがラブーンくんを威嚇したのです。この時のことをSさんはこう語ります。

「アイルが威嚇できて嬉しかったんです。それってアイルが安心している証拠でしょう。私たちはアイルに必要と思ってもらえてたんです」

もうビクビク怯えているアイルちゃんの姿はありません。嫌なものは嫌と自己主張できる猫に成長しました。それは落ち着ける環境があればこそ。

そんな愛情いっぱいのSさん夫妻のもとにやってきたラブーンくんですから、威嚇するアイルちゃんをものともせず、安心してグイグイ近寄っていきます。今ではとても仲良しに。

夫婦のライフスタイルも変わります。よく遠出をしていたのが、アイルちゃんとラブーンくんのご飯の時間には帰宅する日々。それが全然苦痛じゃない。夫婦の会話もアイルちゃんとラブーンくんの話題が中心です。夫婦の絆は強くなるばかり。

アイルちゃんに必要と思ってほしいと願ったSさん夫婦。でも、実のところアイルちゃんを必要だと感じていたのは、Sさん夫妻自身だったのかもしれません。

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