初対面なのにすり寄ってきた警戒心ゼロのノラ猫2匹…“見て見ぬふり”ができなかった女性の一大決心

岡部 充代 岡部 充代

 ヒトへの警戒心がないノラ猫。道行く人から食べ物をもらおうとすり寄ってきたり、甘えた“猫なで声”で鳴いたり。思わず「かわいい!」と言いたくなりますが、そこには猫にとっての危険がいっぱい潜んでいます。

 神戸に住んでいたchichiさんが2匹のノラ猫に出会ったのは昨年8月下旬のこと。やせっぽちで毛並みの悪い茶トラと茶白の猫がまとわりついてきたそうです。きっとお腹をすかせていたのでしょう。chichiさんは何かあげたい衝動にかられましたが、そこは団地の敷地内で『ノラ猫の餌やり禁止』の看板があちこちに。仕方なく帰宅したものの、翌日になってもその子たちのことが気になって…。

「コンビニでカリカリフードを買って、薄暗くなってから行ってみました。猫たちは同じ場所にいて、ごはんをあげると貪るように食べましたね。私のことをジロジロ見る人や、聞こえよがしに『餌をやっちゃダメなのに』と言う人もいましたけど…」(chichiさん)

 

 いつも通る駅までの道。ノラ猫を見掛けたことはありましたが、2匹のようにすり寄ってくる猫は初めてでした。Chichiさんは「人懐こくてかわいい」と感じるよりも、むしろ「心配だった」と言います。

「車道をふらふら歩いていたり、初めての人にも全く警戒心なく近寄っていくのですから。悪いヒトに連れて行かれたらどうするのって。きっと誰かに飼われていたんだと思います。外での生活に慣れているようには見えませんでしたから」(chichiさん)

 しばらく様子を見ていると、chichiさん以外にもごはんをあげているヒトがいると分かりました。決まった時間に決まった場所で、ということではなく、キャットフードを置いて車で立ち去るヒト、買い物袋からちくわを取り出して投げて終わりのヒトなど様々でしたが。とにかく空腹は満たせているようだったので、chichiさんは毎日お水をあげることにしました。茶トラの猫は余程のどが渇いていたのか、お椀の水をいつまでも飲んでいたそうです。

 

 ただ、ごはんと水をもらえたからといって、つい最近まで飼われていたと想像される猫たちがノラとして暮らしていくのは容易ではありません。「毛並みは相変わらず悪くて皮膚も荒れていましたし、毛に鮮血が付いていることもありました」とchichiさん。せめて病院に連れて行ってあげたいと思いましたが、問題はその後です。不妊手術までして元の場所に戻すこともできますが、それでは危険と隣り合わせの状況は変わりません。次の選択肢は里親さんを探すことですが、成猫の2匹を一緒に引き取ってくれるご家族は簡単には見つからないでしょう。残る選択肢は…自分の家族に迎えることでした。

「何度か頭に浮かびましたが、簡単には決められませんでした。猫を飼ったことが一度もないので、ちゃんとお世話できるか不安でしたし、経済的な心配もありました。ボランティア団体さんの中にはかなり厳しい譲渡条件を設けているところもありますが、それを見ていると私には飼う資格がない気がして…」(chichiさん)

 相当、悩んだというchichiさん。でも、時間的猶予はあまりありませんでした。2匹がリュックを背負った人にひどく怯える様子が見られたからです。飛び上がって逃げたり、chichiさんのそばで固まっていたり。「何かひどい目に遭わされたのかもしれない」。そう思ったchichiさんは、大阪・池田市にある『のらねこさんの手術室』に相談しました。飼い主のいない猫、つまりノラ猫の不妊手術専門病院で、捕獲のお手伝いや送迎もサポートしてくれます。いろいろアドバイスをもらう中で言われたのは、「猫たちを引き受ける覚悟を持つことが大事で、条件のようなことを難しく考える必要はないのではないか」ということ。この言葉に背中を押され、chichiさんは決心しました。

 諸事情により捕獲はノラ猫・保護猫専門のお手伝い屋さん『ねこから目線。』に依頼しましたが、ここでは“警戒心ゼロ”が幸いし、2匹ともスムーズに捕獲成功。病院で治療と去勢手術を受けchichiさんの家に来たとき、出会いから1カ月がたっていました。

 実はchichiさん、2匹を迎えるために京都に引っ越しました。パートナーの縁者が持つ一軒家で、主に自宅で仕事をするchichiさんと猫2匹が暮らすには十分な広さ。猫たちが自由気ままに過ごすことができる理想的な家です。

 新しい名前は「あるふぁ」(茶トラ)と「べーた」(茶白)。Chichiさんにとって「1番目と2番目の猫」という意味が込められています。初日からしっかりごはんを食べ、ゴロゴロと寝転がるなど馴染んだ様子だったというあるふぁ君とべーた君は、chichiさんの生活に潤いを与えてくれているようです。

「毎日ちゃんとお世話できるか不安でしたが案外、大丈夫でした。猫たちがいるだけで癒されますし、幸せを感じられます。あのとき“見て見ぬふり”をしなくて本当に良かった。これからも、これで良かったんだと思えるように、あるふぁとべーたにも思ってもらえるように暮らしていきたいです」(chichiさん)

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