「そもそも我々人間は、所詮は大自然の一角にお邪魔しているだけの立場と存じます。
その謙虚さと真摯な気持ちを持たずして、果たして自然と共存できるのでしょうか?」
宿泊客の「風呂に小さな虫がいた」という苦情のクチコミ投稿に対し、理路整然と意見表明する温泉旅館がSNS上で大きな注目を集めている。件の温泉旅館というのは群馬県四万(しま)温泉の叶屋旅館。
「一応、お客様のお呼び出しが頂ければ虫の排除はしておりますが……それでも小さな虫は山から自由に飛んできます。
それすらも許せないのでしたら、もう虫の住処である山を全部焼き尽くして、虫が涼める場所である川もコンクリートで埋めてしまうしかないと思います。
ですけど、ハゲ山とコンクリートで固められた川とか、見たいですか?」
やりとりは2017年のものだが、一般的なクチコミ対応をはるかに超越した叶屋旅館のセンスある対応に、SNSユーザーからは
「この宿、口コミの返事がキレ味良すぎるw」
「すげーwwwこの旅館泊まりたくなってしまった。。」
「ウチも家族から虫についてのクレームがあるので温泉旅行行きたくなくなりました。近所のスーパー銭湯の方が気持ち良いのではと思ってしまいます。露天風呂などは自然の中に人間がお邪魔する気持ちで利用したいです。」
など数々の称賛のコメントが寄せられている。
叶屋旅館のご担当者にお話をうかがってみた。
中将タカノリ(以下「中将」):4年前のクチコミ対応が今またTwitter上で注目されていることはご存知でしたか?
担当者:叶屋旅館さんについてTwitter上で話題になっていたことは、このお電話で初めて知りました。群馬の片隅の四万温泉という読み方すら覚えて貰えていない小さな温泉地の小さな温泉宿に注目して頂けるのは、嬉しい限りです。
中将:叶屋旅館さんは山、川など自然に恵まれた立地ということですが、虫に対するお客さまの反応についてお考えをお聞かせ願えないでしょうか。
担当者:昨今は虫が苦手なお客様が性別問わず増えていますので、宿側として配慮が必要だと思います。ですが、自然に囲まれた里山は虫や動物達にとっても過ごしやすい環境であり、快適な場所を求めて虫が迷い込んできてしまうこともあります。里山の自然環境についてご理解頂ければ幸いです。
中将:叶屋旅館さんのクチコミに対するご対応を他にも拝見しましたが、ウイットに富んで楽しいものが多いのが印象的でした。クチコミへの対応時に心がけていることがあればお聞かせください。
担当者:お客様のご意見に対して色々と主張していますが、基本的にお客様のご意見は正義だと思っています。もちろん、それはお客様にとっての正義であり、宿側の正義とは相反する場合もあります。お客様のご意見を尊重することは大切ですが、宿側の気持ちをお伝えすることも同じくらい大切だと思っております。クチコミを読まれるお客様にご理解を賜りつつも、宿泊業に従事している人たちの想いを少しでも感じ取って頂けたらいいな、という心構えで書いております。
「四万温泉 叶屋旅館」関連情報
所在地:群馬県吾妻郡中之条町大字四万4139-12
公式サイト:http://www.kanouyaryokan.com/
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日本の宿泊業では宿泊客の要望ばかりが重要視される傾向があるが、そもそも観光、旅行とはその土地にお邪魔させていただく行為。金銭の授受があるとは言え、宿泊客と宿の関係性は対等のはずだ。今回のインタビューを経て、宿泊客はもっと謙虚な気持ちになっていいと思うし、叶屋旅館のような発信をする宿がもっと増えてもいいのになと感じさせられた。