コロナ禍で変わる「事故物件」事情…感染恐れて悔やまれる孤独死も 問い合わせ殺到の「成仏不動産」に聞いた

渡辺 晴子 渡辺 晴子

事故物件専門の物件紹介サイト「成仏不動産」を運営している、横浜市の不動産会社「MARKS」社長の花原浩二さん。サイト運営のほか、事故物件の特殊清掃や売却なども請け負っている。2019年4月にサイトを開設した翌年、新型コロナウィルス感染拡大の猛威に直面。コロナ禍の影響で遺体の発見が遅れるといった“孤独死”を目の当たりにしたという。コロナ禍における事故物件の現場とは…事故物件取り扱いのプロとして活躍する花原さんにお話を伺った。

東京・80代の女性が遺体で発見…親戚から売却依頼を受けた不動産会社

昨年9月、東京都内のマンションで80代の女性が遺体で発見された。死因は、病死。実際、亡くなったとされるのは8月前半。独り暮らしだったこともあり、1カ月ほど発見が遅れたという。亡くなった女性の親戚から、女性の自宅の清掃と売却の依頼を受けたのが「MARKS」だった。 

「亡くなられた方は10年ぐらい前までは家政婦のお仕事をされていました。今はもう引退されてご自宅にいらっしゃったらしいです。とてもしっかりした方で、パソコンやiPadなど数台を所有され、使いこなしていたそうです。また、おしゃべり好きで元気なおばあちゃんだったと伺っています。ただ、お子さまがいらっしゃらなくて、近くに住まわれていたご親戚の方がときどきご自宅に顔を出されていたそうです」と、花原さん。

さらに、「ご親戚の方は、コロナ禍になる前まではちょこちょこおばあちゃんに会いにいっていたと、話されていました。コロナ禍となってから、感染予防のため直接会いに行くことはなくなり、1カ月に1、2回の電話で安否確認をしていたとのことです。やはり、コロナの影響で、おばあちゃんとご親戚の関係が少し疎遠になっていたことが伺えました」と振り返る。

部屋に残されたiPadの中から日記が見つかる 「体調が悪い…」亡くなる直前に書いた?

そんな独り暮らしの女性が孤独死…女性の亡くなる直前の様子が分かる日記がiPadの中から出てきたという。それは、次のような内容だった。

 「体調が悪いんだけど、コロナだから病院に行くのが怖い。だからもうちょっとコロナが落ち着いたら病院に行こうかな」。

 女性が書いたとされる日記は8月10日で終わっていた。その直後に亡くなったとされている。

 日記について、花原さんは「『病院に行こうかな』と書き記されたことは、だいぶ悪かったのではないかと推測されます。しかし、感染を恐れて病院に行くことをためらっていったのでしょう。また、その日記の中には『コロナによって人との付き合いが変わった』『先が見えない』ようなことも書かれていたそうです。

まさしくコロナによって普段だったらもうちょっと距離が近かったご親戚の方とも疎遠になってしまって、おひとりでとても心細かったのではないでしょうか…亡くなられる数日前にはご親戚の方がお電話したようですが、急に悪くなられたことが伺えます。コロナ禍ではなかったら話もできただろうし、病院にも行けたかもしれない。本当に悔やまれる“現場”でした」

 亡くなった女性が発見されたのは、女性の自宅前に積み上げられた宅配便の荷物を見た地元の保健委員が「おかしい」と気付いたことからだった。届いていた荷物の中には感染予防のための「フェイスシールド」があったという。もしかすると、亡くなる直前、女性はフェイスシールドを着用して病院に足を運ぼうと考えていたのかもしれない。

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死因が分からず現場に入る場合も…コロナ禍の清掃作業、特殊薬剤を室内に散布してから開始 

こうしたさまざまな人の“死”と向き合いながら、不動産事業を展開している「MARKS」。事故物件の特殊清掃も請け負う。コロナ禍における清掃は、徹底した感染予防対策に取り組んでいるという。

 花原さんは「事前のヒアリングで(亡くなった方が)コロナに感染していたことが分かっている場合もあれば、何の死因か分からず現場に入ることもありますが、先に入念なヒアリングをしています。いずれの物件に関しても、コロナの感染を防ぐという特殊な薬剤を散布してからの作業が必須です。

そもそも孤独死や事故死、自殺や殺人などの現場は、時間の経過とともに体液が臭いや害虫を発生させるほか、腐敗による細菌の増殖で感染リスクも高まりますので、清掃の際は防護服と特殊マスクを着用しております。日ごろから十分な感染対策はしていますが、現場に入るときには靴にカバーをするなどいつも以上の対策を取っています」と話す。

“事故物件”映画のヒットで「住んでも平気かも?」 サイトに問い合わせ殺到

 一方で、昨年はコロナ禍であったものの、事故物件住みます芸人として活動する松原タニシさんの著書「事故物件怪談 恐い間取り」(二見書房刊)が映画化。「事故物件 恐い間取り」(中田秀夫監督、亀梨和也主演)が昨年8月に公開されヒットしたおかげで、事故物件専門に扱うサイト「成仏不動産」も注目を集めたという。

 「映画の公開とともに、事故物件というものがメディアで取りあげられるようになって、当社への問い合わせが増えてきたのは確かです。これまでは事故物件というと嫌がる方が多かったのですが、映画などを通じて具体的にどういうものかと目にすることで、『住んでも平気』という方が増えてきたと感じます。とはいっても、さすがに殺人のあった物件に住むのは嫌だという方は多いですね」と花原さん。

しかし、他殺などがあった物件でも「有効利用できる」と訴える。

 

他殺の事故物件、購入価格は5割程度 サロンなど住居以外の利用に有効

「確かに、他殺が一番ネガティブですから、他殺の物件を許容される方は非常に少ないです。室内での他殺の場合、一般的な相場は5割程度で購入価格は安くなるものの、特に住居にする方は嫌がりますね。

ただ、他殺の物件は住居以外の利用に有効なんです。例えば、マンションの一室でサロンなどを開くとか。人が亡くなっているかどうかを利用者への告知義務はありません。住むわけではないですから。気にされなければ、サロンなどを開業される際にはおすすめします」。

 また、他殺の物件は半分近くの価値に下がるとのことだが、事故物件の価格相場については、具体的な事案の内容や、報道による影響、購入者の捉え方、地域などによって売却価格への影響は大きく異なるという。

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日本の事故物件、海外の不動産投資家から注目 その理由は?

近年、日本の事故物件は海外での不動産の投資家から注目されているようだ。その理由について、花原さんは「孤独死や自殺他殺含めての事故物件というのは下落リスクも低く、年数が経つことで心理的瑕疵(かし)が薄まってきます。なので、価格が元の価格に戻る力、つまり上昇圧力があることから、投資家目線では魅力的な物件です」と話す。

 中国や韓国、シンガポール向けの不動産売買事業も展開し、海外の不動産事情などにも詳しい花原さん。もともとは大手不動産会社の営業マンだった。これまで培ってきた知識を生かして「空き家問題など不動産の可能性を追求して、世の中の困りごと解決したい」との思いから独立、事故物件の事業をスタートしたという。最後に、今後の目標について聞いてみた。

 「当社は、売却を目的として特殊清掃や解体、リフォーム・リノベーションを行っています。単純に清掃やリフォームなどを行うのではなく、物件の特徴や市場性を加味しながら、住まいの空間をよりデザイン性の高いものに改良するなど事故物件を価値のある物件に生まれ変わらせるよう努めています。

さらに、今後は事故物件の適正な取引市場を広げるため、3つの目標があります。1つは事故物件の流通システムを作ること。2つ目はイメージアップを図ること。3つ目は実績を作ることです。これらの目標を達成するために、昨年11月から買取も始めました。事故物件は市場で明確な基準がなく、その都度“言いなりの価格”になってしまっているケースが散見されます。われわれが正しく買い取ることによって、今後は事故物件の価格の透明化を図っていこうと思います」

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