受動喫煙が若者の歯をむしばんでいる―家族との時間が長くなる前に思い出して

ドクター備忘録

中塚 美智子 中塚 美智子
受動喫煙は歯にとってよくない影響を与えるものであるといえそう(aijiro/stock.adobe.com)
受動喫煙は歯にとってよくない影響を与えるものであるといえそう(aijiro/stock.adobe.com)

父はヘビースモーカーでした。パンチが効いていた(らしい)タバコを愛飲していましたが、私が中学3年の時に心筋梗塞になり、それを機に完全に止めました。生後15年にわたり私は家庭で副流煙にさらされてきたことになりますが、先日岡山大学から、家庭で10年以上受動喫煙にさらされていた若者はそうでなかった若者より虫歯になりやすいとの調査結果が発表されました(#1)。

受動喫煙の影響は乳歯においてもすでに報告されていて、出生後4か月で受動喫煙が確認された子どもは、タバコを吸う人がいない家庭で育った子どもに比べて3歳の時点で約2倍虫歯ができていたそうです(#2)。タバコの煙に含まれる化学物質は何らかの影響を及ぼして口の中の環境を変え、虫歯になりやすくなるなど、歯にとってよくない影響を与えるものであるといえそうです。

虫歯は歯の質、食事、口の中の細菌、時間の経過の要因が重なりあった場合にできると言われています。虫歯の原因菌としてミュータンス菌が挙げられますが、ミュータンス菌は糖分を取り込み、分解してエネルギーと酸を作り出します。歯の表面にあるエナメル質は酸によって溶ける性質がありますが、時間が経つにつれミュータンス菌によって作り出された酸によってエナメル質が溶かされ、虫歯になります。

ここで口の中の汚れを唾液が洗い流したり、血液に含まれる白血球の働きで体に有害なものを排除したりすることができれば虫歯のリスクは下がるのでしょうが、残念ながらタバコの煙に含まれるニコチンには唾液の分泌を抑え、血管を縮める作用があるため、虫歯のリスクを下げることが難しくなります。副流煙にさらされた若者や子どもの歯が虫歯になりやすいのは、ニコチンの作用が影響している可能性も考えられます。

タバコの煙は吸っている本人が吸う主流煙よりも、火の点いたタバコの先から直接出る副流煙の方が有害物質が多く含まれていることがわかっています。虫歯ができた要因は副流煙以外ももちろん検討すべきですが、愛煙家のみなさまには年末年始ご家族とお過ごしになる時間が長くなる今、この話を思い出していただきましたら幸いです。

(#1)Saho H, et al. Int J Environ Res Public Health 2020;17:8623

(#2)Tanaka S, et al. BMJ 2015;351:h5397

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