怖い口腔内細菌、人工関節の手術から数年後に関節の周囲に炎症 口腔ケアで感染予防を

ドクター備忘録

中塚 美智子 中塚 美智子

加齢や病気などが原因で足の付け根や膝の関節に異常が起こり、痛みが出て悩んでいらっしゃる方は少なくないようです。いろいろなところに出かけたくても痛くて自由に動けないのは辛いですね。

足の付け根にある股関節や膝関節の変形などで、人工関節に置き換える手術があります。手術では変形や変性がみられる関節部分全体を取り除き、人工の材料で作られた関節に置き換えます。患者さんは痛みから解放され、歩けるようになるのが最大のメリットだそうです。

しかし、注意を要することとして口の中に存在する細菌による感染が挙げられています。股関節、膝関節になぜ口の中の細菌が関係するのかと思ってしまいますね。感染は手術中、手術後ともに起こる可能性がありますが、口の中の細菌が血流に乗り、人工関節のところに留まって炎症を起こすようで、手術後数年経過した後に人工関節の周囲に炎症が起こった例も報告されています(#)。この例では膝の関節液から口腔内細菌が検出されました。

人工関節に感染が起こると再手術が必要になるケースが少なくないそうで、是非とも避けたいところです。人工関節の手術を受ける際、整形外科の医師などから事前に虫歯や歯周病の治療をするよう勧められると思いますが、歯科医師にも是非、人工関節置換の手術を受けることを伝え、手術の前に必要な処置をしてもらうようにしましょう。なお人工股関節置換術等に伴う口腔機能管理は、平成30年から健康保険適用になりました。

口の中を清潔にすることが糖尿病や誤嚥性肺炎などの予防につながることは多くの方に理解されるようになってきましたが、人工股関節や膝関節の置換手術とはまだまだ結びつかない方が多いでしょう。人工関節は長年にわたり体の中に留まり、使い続けるものです。股関節や膝関節は口とは関係ないと思わず、常に口の中を清潔に保つことを心がけたいですね。

(#)松下 優,萩原博嗣,新井貴之他.口腔内常在菌の関与が考えられた人工膝関節置換術後感染の1例―TKA術後の口腔ケア―.整形外科と災害外科 2015;64:268-71

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