東京のど真ん中でウロウロ…迷子になった犬のくろ君 優しい人たちの協力で2週間後に家族のもとへ

岡部 充代 岡部 充代
写真はイメージです(dreamnikon/stock.adobe.com)
写真はイメージです(dreamnikon/stock.adobe.com)

 昨年11月23日、東京都新宿区に暮らす1匹の犬が行方不明になりました。名前はくろ君。保護施設から里親さん宅に来て1か月程だったと言います。元野犬だったくろ君は音に敏感。さまざまな音が渦巻く都会での生活に慣れていなかったのでしょう。散歩中に何かの音に反応して暴れ、二重リードだったにもかかわらず逃げてしまったそうです。

 飼い主の中村真里さん(仮名)は友人らと懸命に探しましたが見つからず。逸走から3日後、迷子になったペットを捜索する“ペット探偵”に依頼して、チラシの掲示・配布による情報収集に努めました。

「まずはチラシが有効ということで増刷を重ねたのですが、数日たっても情報は1件だけ。しかも逃げた直後の目撃情報だったので、その時点でどこにいるかは分からなくて…」

 中村さんは眠れぬ夜を過ごしていました。

 同じ新宿区在住の杉田かつえさんが愛犬・くまちゃんの散歩中に赤い首輪をした犬を見掛けたのは11月29日午前7時30分頃、場所はJR市ケ谷駅近くの公園でした。立ち止まったくまちゃんの視線の先に、その犬はたたずんでいたそうです。

「5メートルくらい離れた場所でこちらの様子をうかがっていました。『どうしたの? ひとりなの?』と声を掛けると近づいてきたのですが、警察に電話している間に外国人ランナー2人が豪快に走り抜けて、それに驚いたのか逃げてしまったんです」(杉田さん)

 駆けつけた警官2人と一緒に周辺を探しましたが見当たりません。杉田さんはその場で次の行動に出ました。それは『ドコノコ』という犬猫写真投稿アプリに迷い犬の情報を投稿すること。このアプリには『迷子掲示板』という機能があり、投稿すると近くにいるユーザーに通知が行くシステムになっています。朝、公園で撮った写真を添えて情報をアップすると、夜には「同じ公園で見掛けた。オヤツをあげながら首輪を掴もうとしたが逃げられた」といった最新情報が寄せられました。

『ドコノコ』のユーザーは皆、愛犬家や愛猫家たち。近くに迷子がいると分かると我が事のように心配し、実際に探しに行ったり、置きエサをしたり、飼い主さんに助言や励ましの言葉を送るなど、見知らぬ者同士が一致団結して迷子捜索に当たるのです。

 大きな動きがあったのは翌30日。フォロワーの一人がペット探偵が作成した迷子チラシの存在を知り、公園で目撃された迷い犬が「くろ君」と判明しました。杉田さんはすぐにペット探偵に連絡。飼い主である中村さんと直接つながることができました。

「うれしかったですね。久々にくろの写真を見ることができて。教えていただいた公園は家から4キロ程離れているのですが、私の職場の近くで、連絡をもらった日の朝たまたま行った病院から200メートルくらいしか離れていなかったんです。すぐに探しに行きましたが、その日は会えませんでした」(中村さん)

 迷子を見掛けたら写真か動画を撮る!誰かが探している犬や猫と一致するかどうかの有力な判断材料になるからですが、突然の出来事に慌てると忘れがち。杉田さんは以前にも迷い犬を見掛けたことがあり、何もできないまま逃げられた後悔から、「次は絶対に証拠写真を撮ろう」と決めていたそうです。

 それから1週間後の12月7日、さらに大きな動きがありました。一人のフォロワーが「通勤途中に靖国神社で見掛けた」とコメントしたのです。それは中村さんの職場と目と鼻の先。にもかかわらず、会議中で探しに行けない中村さんに代わって、杉田さんらが現地へ駆けつけてくれました。

 残念ながら杉田さんはくろ君に会えませんでしたが、しばらくして「くろ君保護!」の連絡が。一時期一緒に暮らしていた犬が江戸川区から応援に来てくれ、その子に誘われるようにくろ君が姿を見せてくれたのだとか。

「最初に杉田さんの前に出てきたのも犬が一緒にいたからだと思います。実は公園で夜な夜な待っていたとき、一度だけくろに会えたんです。名前を呼んだら振り返ってくれたけど来てはくれなくて…。そのとき『犬がいないとダメだ』と思ったので、靖国神社のときは援軍を頼みました。でも、保護できたのは杉田さんはじめドコノコユーザーの皆さんのおかげです。情報がなくかなり落ち込んだ時期もありましたが、皆さんの応援に本当に励まされました。感謝しかありません」(中村さん)

 初めてくろ君を見掛けたとき保護できず、「体に枯葉をつけて痩せていた犬はお腹を空かせていたかもしれない。オヤツで誘って捕まえることはできなかったのか」「でもリードはないし休日の早朝で人通りもない。犬連れの自分一人で何ができたのか」と思い悩んでいた杉田さんも、保護の一報に大喜び。「ドコノコは本当によくできたシステム。近くに結構ユーザーさんがいることも分かりましたし、お役に立ててよかったです」と笑顔を見せました。

 約2週間ぶりに家に帰ったくろ君はあばら骨が浮いて見えるほど痩せていたもののケガなどはなく、ごはんをモリモリ食べて元気に暮らしているそうです。

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