製造元という日本の住所に行ってみた
その鍋を買ったという中国のネットユーザーがアップしたレシートによると、鍋の製造元は「富山県射水市松木」にある「日本株式会社 伊藤製作所」となっていた。ここが伊藤慧太氏の工房ということか? 調べたところ射水市を所在地とする「株式会社 伊藤製作所」という法人は登録されていなかったが、「松木」という地名は存在する。
他の「偽日本製事案」では、中国人が多いエリアに一応の事務所や店舗を構えているケースもある。今回も事案にかかわる何かあるかもしれない。実際に行ってみたところ……。
特に「壹加生活」や「伊藤製作所」に関係するものは見当たらなかった。
現地は古くから交通の要所とされており、現在も新潟から北陸を縦断し京都まで伸びる幹線道路が走っているが、基本的には住宅地だ。そして射水市にあったのは中国人街ではなく、日本屈指のパキスタン人コミュニティであった。地元市民に松木周辺のことを聞くと「パキスタン料理店が有名」とのことである。なぜこの地が伊藤製作所の所在地に選ばれたのか……謎である。
さて、この手の日本の超人気ブランドであるとうたって成功した例と言えば、ユニクロとダイソーと無印良品を足して3で割ったと言われる雑貨ブランド「メイソウ(MINISO)」だ。
メイソウは中国で頭角を現し始めた頃、謎の「日本人デザイナー」による「日本の人気ブランド」という体裁で売り出されていた。だが、当時の日本での知名度はほぼゼロ、一応、日本フラッグシップ店は存在したが、公式サイトの華やかな印象とはうって変わってコンビニくらいの広さしかなくフラッグシップと呼ぶにはあまりにもささやかな店舗だった。
だが、商品のクオリティとコスパの良さから支持を得て大成長、いまや米国上場企業だ。壹加生活は2匹目のドジョウを狙っていたのだろうか。
偽商品には「全額返金+その3倍の賠償金」
壹加生活も、例の鍋を5万個以上販売し、中国大手メディアにも紹介されるなど順調に成長しているようだったが、2020年12月に偽物ハンターと呼ばれるブロガーが「鍋が日本製であることも、伊藤慧太氏が日本人であることも嘘である」と告発。ネットで話題になり報道されると壹加生活はあっという間に公式サイトや販売サイトを削除し、ドロンと姿を消してしまったのだ。
壹加生活が雲隠れしたのは炎上を恐れた可能性もあるが、賠償金の問題もあるかもしれない。中国では消費者が偽物の商品を購入してしまった場合、返金のうえ賠償金を請求できる。その額は法律で「一退三賠(全額返金+その3倍の賠償金)」と定められているのだ。しかし消費者からは「壹加生活と連絡がつかず返品できない」という声が寄せられている。
筆者も企業情報サイトで公開されている壹加生活・中国本社の代表番号という携帯電話に何度かかけてみたが、コール音はするものの電話には誰も出なかった。ネットでは集団での返品交渉を呼びかける声も出ているが……なお壹加生活が返品を全て受け付けた場合、賠償額は1億2000万人民元(約19億円)になると見られている。消費者を騙すとその代償は大きいようだ。