急激に広がる「まちライブラリー」仕掛け人に聞く 大阪では公共図書館より数が多いんだってよ

山本 智行 山本 智行

 本を持ち寄り、個人宅やカフェなどで人々が交流する私設図書館「まちライブラリー」をご存じだろうか。2011年、大阪から始まったムーブメント。いまや全国で820カ所以上、大阪府内では180カ所あり、150カ所と言われる公共図書館の数を上回っている。提唱者の礒井純充(よしみつ)さんも驚くスピードだ。その変遷と背景を追ってみた。

 「まちライブラリー」はだれかが持ち寄った本をだれでも借りられるユニークな取り組み。いわば市井(しせい)の図書館のようなものだ。それぞれの本の巻末には持ち主の名前やオススメのポイントなどが書かれたメッセージカードが挟まれ、本を読んだ人が感想を書き込むことができるのも特徴。また本について語るイベントや自分の得意分野を発表することで人と人がつながる場所ともなっている。

 始まりは2011年、提唱者の礒井純充さんが大阪・天満橋に所有するビルの一角に1000冊の蔵書を持ち込んだ。「それより少し前から構想はあり、実験的な取り組みはしていました。みんなが本を持ち寄って、楽しく交流できる場になればと願い、最初はビルの中のライブラリースペースとしてスタートしました」

 13年には大阪府立大サテライトキャンパス、15年には森ノ宮の商業施設「もりのみやキューズモールBASE」でも産声を上げた。現在は個人宅はもちろん、飲食店やお寺、病院、美容室、駅などで次々とオープン。その取り組みは13年にグッドデザイン賞を受賞した。

 仕掛け人の礒井さんは大阪出身。大学卒業後の1981年に「森ビル」に入社した。キャリアを重ね、社会人教育機関「アーク都市塾」の創設に尽力。その後、産学連携の会員制図書館「六本木アカデミーヒルズ」を立ち上げ、役員として広報部門の責任者となった。

 「場所は六本木ヒルズの49階。スターを呼んで会見するようなところでした」。収益性は高い反面、人と人のつながりが薄れ、違和感のようなものを覚えていた。そこへ違う部署への配置転換になったことで大きな決断を下す。

 「せっかく作品を作ったのに…。じくじたる思いもありました。2010年に役員を辞め、自分のため、人のために楽しいことをやろうとなった。蔵書ゼロからのスタートでしたが、予想以上のペースで広がって行った。普通の主婦だった方がしっかり運営しているのに驚いたり。いまでは街の居場所として子育てやシニアの人、起業などのイベントも行われ、人々の出会いや交流の場になっている」

 例えば、規模の大きなもりのみやキューズモールのまちライブラリーは会費500円で会員6400人。年間14万人が訪れるという。

 「主に半径2キロ以内に住む人が2週間に1回程度通っている。2、3人で運営しているので、事業主体の東急不動産も存在感や費用対効果の高さは分かっているんじゃないでしょうか」

 何を隠そう実は私もここの会員の1人。訪れるたびに本棚が充実し、洗練されていくのを実感、何より焼きたてのピザがおいしい。

 そんな、まちライブラリーは現在、全国で820カ所。大阪府下では180カ所あり、これは150カ所と言われる公共図書館の数を上回っている。なぜ、大阪が多いのか。発祥の地ということもあるようだが、自由に運営できることが大阪人の気質に合っていると礒井さんは分析する。

 「ノリが良くて、おせっかい。何より、読むだけなら無料というのが大きいのでは。関東の人は無料だと警戒するところもあるし、マニュアルを好みますが、その点、関西の人は人と違ったことをやりたがります」

 一般社団法人「森記念財団」普及啓発部長でもある礒井さんは、まちライブラリーに関する論文が認められ、経済学博士になった。

 「将来的にはこの取り組みが社会インフラのような存在になることを願っていますし、本を通じての活動を記録として残していくのが私の使命です」

 おだやかな表情を一瞬だけ引き締めた礒井さん。あなたの街のまちライブラリー、一度のぞいてみてはいかがだろう。

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