娘の人生に口出しする母親も、実はモラハラ被害者だった…「負の世代間連鎖」断ち切るには 専門家に聞く

渡辺 晴子 渡辺 晴子

夫婦間だけではなく、親子間でも起きているモラハラ行為。特に、家庭という閉ざされた空間での親による子へのモラハラは、子どもを精神的に追い詰めるだけではなく、のちの人格形成や人生にも大きく影響を与えるといいます。一体、親から子へのモラハラとは具体的にどのような行為を指すのでしょうか? その実態や要因などについて、親子間のモラハラ相談などを受けている親子療法協会代表で親子夫婦問題専門カウンセリングルーム主宰の影宮竜也(かげみや・たつや)さんにお話を伺いました。

モラハラは相手に対する「支配」 親から子へのモラハラ、親自身の親子関係に問題も

モラハラとはモラルハラスメントの略語で、モラルは道徳、ハラスメントは嫌がらせを意味します。つまり、態度や言葉で精神的に相手を攻撃する暴力のこと。例えば、相手の存在をわざと無視したり、言葉や態度で相手の人格を否定したりする行為などを指します。

影宮さんによると、モラハラの根本にあるのが相手に対する「支配」であり、モラハラをする人というのは相手を支配するために心理的介入を行うとのこと。その介入する際の言動こそが相手に精神的なダメージを与えるハラスメント行為につながるといいます。

さらに、影宮さんは子どもにモラハラを行う親についてこう指摘します。

「実は、ご自身の親との関係があまり良くない、悪いという方が多いです。それは、親御さん自身が気付かないうちに、あまり良好ではない親との関係の中で得た親の歪んだ思考や物事の捉え方を基準に物事の良し悪しを決めるようになっていることが多々あります。そのため、お子さんに対してもご自身の経験した親子関係を “再現”してしまう場合があるのです。分かりやすい例でいうと、ご自身の親があまりにも口うるさい人だったとすると、いつのまにか親御さんもお子さんに口うるさくなっていたり。また逆に、親を反面教師として、親の考え方に反発し、その考え方とは真逆の価値観をお子さんに押し付けてしまうケースもあったりと…これを私は『負の世代間連鎖』と呼び、お子さんへのモラハラを引き起こしている主な要因だと考えます」。

影宮さんによると、世の中の親子問題を抱えている人の多くが、この「負の世代間連鎖」に陥っているそうです。「負の世代間連鎖」が猛威をふるう家庭では、子どもが親の感情の発散のための受け皿にされていたり、子どもに配偶者に対する不平不満を吐き出したりするなど親子間のモラハラも起きているといいます。

そこで、「負の世代間連鎖」が関連して引き起こされた親子間のモラハラについて、影宮さんに寄せられた相談事例をご紹介します。

母親の学歴コンプレックスによるモラハラを受けた女性 結婚を反対された

お母さまから結婚を反対されたため、相談された地方出身のBさんの事例です。

お母さまは、親から「女は学問をしなくていい」などと言われて大学進学を断念。日ごろから高卒である自分が大卒の人に引け目を感じていた方でした。そんな学歴コンプレックスを抱えていたお母さまは、Bさんに対して日常的にこんな言葉を吐き出していました。

「お母さんは大学に行っていれば、あんな(高卒の)お父さんと結婚しなかったのよ」

「お父さんは学歴がなかったから出世できなかったのよ」

「お母さんみたいなみっともない人生を送らないように私は口すっぱく勉強しなさいと言っているでしょ」

さらに、お母さまは事あるごとに親から大学進学の道を奪われて今の状況を「不幸だ」と嘆いていたといいます。

確かに、お母さまは親から「女性は大学に行かなくてもいい」と言われて大学に進まなかったのかもしれません。しかし、実際は思い通りにいかないことがあるたびに、その原因を全て「学歴のせい」「親のせい」などと外に求めて、やり場のない感情をBさんにぶつけていたのです。 このように長年、親の学歴コンプレックスによるモラハラ行為を受けていたBさん。お母さまに対しては「低学歴のくせに何言っているの」などと、尊敬する気持ちが湧かなくなってしまったそうです。とはいっても、自分なりに一生懸命に勉強をして、地元の大学に進学しました。

そして、Bさんが大学卒業後、お母さまの学歴コンプレックスによるモラハラはBさんの結婚相手にまで及びました。

「そんな名も知られていない大学を出て、無名の会社に入った人と結婚するのは許さない」

「こんなに苦労して育てたのに、あなたは親を捨てるのね。結婚するなら絶縁する!」  

そこでBさんは、影宮さんに相談されたのです。

「当初、Bさんはお母さまを尊敬はできないけれど、学歴のない父親と結婚して経済的にも苦労して、一生懸命パートをしながらも家のことを支えてきてくれたかわいそうな人だと思い込んでいました。なので、お母さまに強く反論できずに相談に来られたのです。私と話しているうちに、お母さまが自分のことを顧みずに、思い通りにいかない問題を外に求めているだけだとBさんは気付いてくれました」と影宮さん。

「おそらく、お母さまも気付かないうちに親から言葉によるモラハラを受けてきたのだと思います。Bさんにも同じようにモラハラ行為をし、進学についても結婚についても介入しようと、Bさんの言動を否定するなど数々の暴言を吐いてきたわけです。結局、絶縁という言葉は単なる脅し文句だったようで、最終的には私がBさんとお母さまの間に入り介入させないようにした結果、Bさんはご結婚することができました」と話します。

    ◇   ◇

モラハラをする親はモラハラ家庭で育った? 負の連鎖を断ち切るためには  

親子間のモラハラは、「負の世代間連鎖」が関連していると影宮さんは指摘されていましたが、その特徴として挙げられるのがやはり、モラハラをする親も自身の生まれ育った家庭でモラハラが日常化していたケースが多いといいます。

「例えば、子どものころ、父親が母親に暴言を吐いているところを目撃したり、あるいは母親の言うとおりにしないと威圧的な言葉を吐かれたり…それが日常的に行われている環境で育ってしまうと、子どもは親のモラハラ行為が当たり前だと受け止め、その関係がおかしいと気付きません。モラハラが常態化すると、当然子どもに精神的なストレスはかかるのですが、家庭という閉鎖的な空間で起きることなので『こういうものだ』『仕方がない』とあきらめてしまうことが多いのです。やがて、そういった環境で育った子どもが親になってお子さんとの関係で感情的になる場面に直面すると、自身の親と同じような言動が出てしまうという…このようにモラハラは世代間で受け継がれて、自身の子や孫へと負の連鎖が繰り返されるケースが少なくありません」と影宮さん。

そして、この負の連鎖を止めるためには「まず親御さんがご自身の親との関係を見つめ直すことです。もう親が年を取ったからといって、大目に見てはいけません。親を『親』という枠を外して、1人の人間として見るのです。親がどういった考え方、どういった物事の捉え方をする人なのかと。例えば、親から過去に『結婚相手は弁護士や医者が一番だ』などと言われたことがあるとしたら、こう発言する人を自分自身はどう思うのか。そこで地位や名誉といった表面的な部分を重視する親の考え方とのズレを感じ、人柄が一番ではないかという別の価値観に気付くことが、モラハラの連鎖を断ち切る第一歩につながるのです」。

モラハラを受けて育った親は、子どものころにモラハラを受けていたことに気付くことがまず大切なようです。どんな言動がモラハラなのか。モラハラを受けた子ども時代、どんな思いをしていたのか。そこで初めて、自身の子どもへのモラハラに気付いて行為を改められるのかもしれません。

   ◇   ◇

◆影宮竜也(親子療法協会代表・親子夫婦問題専門カウンセリングルーム主宰)

実の親との裁判闘争の末に絶縁を経験。研究機関で心理プログラムを学び知識を体系化する。親子問題のスペシャリスト養成機関として「親子療法協会」を設立。 日本国内や海外からも相談依頼多数。テレビ、大手新聞社など各種メディアでも、「親子問題の専門家」として幅広く取り上げられる。

▽親子療法協会ホームページ
http://www.kakusei-gold.com/

▽親子療法協会公式ブログ
https://ameblo.jp/daizyoubu-tuki/

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