豊田真由子、ワクチンの効用とリスクを考える 過去には使用中止になった例も

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

「手の平返し」は、どうなんでしょうか・・

日本政府は、2021年前半までに全国民分の新型コロナウイルスワクチンを確保する方針を示しており、米英の3社から、合計1億4500万人分以上を購入することで、契約・合意に達しています。「全国民が接種を希望するってことはないんだけどねぇ」とは思いましたが、ここで指摘申し上げたいのは、2009年の新型インフルエンザパンデミックのときのワクチン問題です。当時政府は、国産ワクチンに加え、9900万人分を輸入し、費用は1126億円でした。しかし、結果として、接種は進まず、ワクチンは大幅に余ることとなりました。すると、「なんて無駄遣いをしてくれたんだ!」という強い批判が向けられました。今回の新型コロナウイルスワクチンと同様、当初は、「『早く・たくさん』新型インフルエンザワクチンを確保するべき!」という論調・世論が多くあったにもかかわらず、です。

こういう手の平返しは、いろいろな意味で、望ましいことではない、と私は思います。(もちろん、政策を考える上で、できるだけ無駄を排する努力をすることは、必要ですが、今回の論点はそこではなく。)

ワクチンは外交上の重要な外交物資?

中国やロシアが躍起になって開発を進めてきていることからも分かる通り、この危機下において、新型コロナウイルスワクチンは、国際社会における覇権争い、他国への影響力向上等につながっていく面は確かにあります。

ただし、これは外交での経験からの実感ですが、個人であれ国家であれ、モノで相手の歓心を買おうとすること・利害に立脚して構築された関係というのは、真のリスペクトや信頼・協働関係に基づく強固な絆とは、大きく異なります。

安全性の観点から、先進国基準の必要なプロセスを経ずに使用されているロシアのワクチンを、先進国は導入しようとは思いませんし、「ワクチンを持っていること」は、「自由や民主主義といった価値を共有できる、国際社会の様々なルールに従える」といった重要な価値を上回るものでもありません。

自らの覇権のためではなく、世界全体を救うという高邁な精神(きれいごとばかりでないことは承知の上)に立脚して、新興国・途上国を支援する姿勢が求められます。その意味では、新型コロナウイルスワクチンを共同購入する国際的な仕組みであるCOVAXファシリティ(我が国におけるワクチン確保のための一つの手段+国際的に公平なワクチンの普及に向けた貢献)等の取り組みに、引き続き期待します。

ワクチンができたら「もう大丈夫」?

新型コロナウイルスワクチンが国内で流通するにはまだ時間がかかりますし、そもそも、いろいろな意味で、「ワクチンさえできれば、すべて解決!」とはならないことは、以前から申し上げているとおりです。本年は、季節性インフルエンザの流行が非常に抑えられていることを見ても、皆様が努力して取り組んでいる感染防止対策が、個人としても社会としても、感染症の予防に寄与していることが極めて大きいことが分かります。

低温乾燥の季節を迎え、第3波の拡大が懸念されていますが、一人ひとりが、引き続き感染防止対策を取るとともに、前向きに日常を送ってまいりましょう。

<参考>

・予防接種後副反応報告書集計報告書・予防接種後健康状況調査集計報(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/syukeihou.html 
・デング熱(厚生労働省検疫所)
https://www.forth.go.jp/useful/infectious/name/name33.html
https://www.forth.go.jp/keneki/nagoya/id/id_dengue.html
・COVAXファシリティ(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13597.html
・インフルエンザ発生状況(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou.html

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