空からプロペラのように回転しながら落ちてくる無数の物体を撮影した動画が話題です。実はこれ…植物の実が落ちてきている様子なのだそうです。シャワーのように降り注いでくる無数の羽の動きを見ていると、なにかとてもメルヘンな気持ちになってきませんか？ SNSには「自然って不思議」「生き物の神秘を感じる」といった驚きの声が数多く寄せられています。
撮影したのは、タイに住み、世界中の木の実の収集や動植物の観察を続けている研究者・山東智紀さんです。現地で観察されるフタバガキ科の樹木「Shorea siamensis（ショレア・シアメンシス）」が実を落とす様子をTwitterに投稿しました。
動画を見た人たちからは、実が落ちてくる様子について「面白い」「素敵」といった声が続々とあがっています。落ちてくる実の数や大きさに驚く人や、スローモーションのような動きに魅入られる人も。「妖精みたい」「羽子板の羽みたい」「空挺団みたい」と、イメージを広げる人もいました。
撮影した山東さんにお話を聞きました。
―今回の動画はいつ、どこで、どのように撮影されたものでしょうか。
「2020年の3月に、タイ東北部のナコンラチャシマ県で撮影したものです。2010年にタイに来て以来、この落果の様子はいつか撮影してみたいと何年も撮影しようとしてきましたが、結実量が少なかったり、訪問時には落ちてしまっていたりとなかなかタイミングが合いませんでした。今年は結実量が多く、なおかつ撮影に適した高さの木に出会うことができ、やっと撮影することができました」
―えっ、そんなに貴重なシーンだったのですね。
「この実が回転して落ちてくること自体は、タイ東北部の田舎にいる子供たちなどは普通に知っています。しかし、実際にこのような落下してくる光景を目にすることができるのは稀です。本来は嵐の前に吹く大風で木が揺らされることで、種子が外れて落ちますが、この動画のために、小枝を木に投げて、落下させています」
―ということは、撮影も試行錯誤されていたのですね。
「この動画を撮影するのに数十回のトライ＆エラーがありました。撮影機材こそ手軽な感じのiPhoneですが、ビデオモードで撮影していては落下が早すぎるため、スローモードで撮影してみたところ、今回の動画のように羽根の回転がよくわかるものが撮れた次第です。なお、向かい風のときに撮影したバージョンもあり、こちらも実が回転しながら落ちてくる様子が別の角度から見ていただけると思います」
―撮影されたショレア・シアメンシスという木について教えてください。
「タイ東北部はサバナ気候で、雨季と乾季があります。そのような場所に形成される『乾燥フタバガキ林』と呼ばれる植生を構成する樹種の一つで、タイ東北部では広く見られます。日本には生えていませんが、かわりにこの木の仲間で、インド原産の沙羅双樹（さらそうじゅ）が知られています」
―大量の実が落ちてくるようですが、木にはどれくらいの実がなっているのでしょうか。
「木の高さは3mぐらいのものから、15m近くになるものがあります。大きな木になれば、実の付く量は1本で1000個を超える量になります」
―実も大きそうですよね。動画を見た人たちからは、「当たると痛いのではないか」と心配する声もありました。
「実（羽根の長さ）のサイズは木によって大小があり、5〜10㎝ほどです。5枚の羽根で回転し、空気抵抗を受けながら落ちてくるため、当たっても痛くはありません」
◇ ◇
11月に初めての著書となる「世界のふしぎな木の実図鑑」を出版された山東さん。このたび動画をアップしたショレア・シアメンシスの実のことも、図鑑では取り上げているといいます。図鑑に載せたくなるほどの「不思議なポイント」はどこにあったのでしょうか。
「何といっても、創造主がいるのではないかと思わせるほどの見事なプロペラの形でしょう。脳も目も持たない植物が、長い歴史の中でこのような精巧な造形を作り出せたことに不思議を感じずにはいられません。写真では伝わりづらいので、今回動画にしてTwitterにアップした次第です」
図鑑は、世界の珍しい木の実を「小林商会」の名前で販売している小林智洋さんとの共著で、集め続けてきた木の実の中から約300種を紹介しているといいます。掲載されている画像は写真家の山田英春さんが深度合成の技術を駆使して撮影したといい、機能美・造形美にあふれた木の実の造形が見応えたっぷりに紹介されているそうです。
創元社発行で、Ｂ５判変型176ページ、定価3000円（税別）。
■創元社「世界のふしぎな木の実図鑑」
https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4168
