温泉街の煙は「湯煙」だけでいい 有馬温泉に加熱式たばこ専用エリアが初設置された理由

山本 智行 山本 智行

 関西の奥座敷「有馬温泉」と国内第2位のたばこ会社「フィリップモリスジャパン(PMJ)」(東京)は加熱式たばこ専用エリアを全国の温泉街に先駆けて設置し、「いい風呂の日」の11月26日から運用を始めている。路上喫煙などを防ぐのが目的。同社は「煙のない社会」を掲げており、有馬温泉と協調し「湯煙だけ」の温泉街を目指す。

 「煙のない温泉地」と聞いて心配になったが、知れば納得。煙つながりの両者の思いが一致し、画期的なプロジェクトが動き出した。ご存じのように有馬温泉は日本三古湯のひとつ。1300年前の日本書紀にも記され、豊臣秀吉が愛したことでも知られる。そんな歴史からサイダー、バス会社、プロパンガスなどの発祥の地にもなっているほど。また日本三名泉にも数えられ、昨年度は年間約155万人の観光客が訪れた人気スポットでもある。

 その一方で長年にわたって悩まされていたのが愛煙家による路上喫煙や人通りの少ない場所での吸い殻のポイ捨てだ。今年4月1日には「改正健康増進法」が施行され、室内での喫煙が厳格化されたことで屋外喫煙が増えることも予想され、温泉街にとって喫煙対策は喫緊の課題となっていた。

 一般社団法人「有馬温泉観光協会」の金井啓修会長は加熱式たばこ専用エリアを新設する包括協定を結んだことを高評価。「いざ、設置するとなると空きスペースを確保するのも大変でしたが、路上喫煙をなくすことにつながり、ポイ捨てによる火災リスクの低減も期待できる。今回の取り組みが何かと発祥地の多い有馬温泉の歴史の1ページになるはず」と歓迎した。

 そもそも今回の提携が実現したのは昨年12月に有馬温泉街でキッチン屋台のイベントを実施した際に移動式の喫煙施設を導入したのがきっかけ。その場で知り合ったフィリップモリス側と接点ができ、今年3月から話し合いが進んだ。

 世界最大の紙巻きたばこブランド「マールボロ」を持つ米フィリップモリス・インターナショナルも「煙のない社会」を掲げ、将来的には紙巻きからの撤退を表明。紙巻きたばこと比べて健康への影響が少ないとされる加熱式たばこ「IQOS(アイコス)」の普及に力を入れている。今年9月末時点ですでに世界61カ国で販売し、1170万人の利用者がいるという。

 国内での普及にも力を入れており、昨年は千葉ロッテの本拠地ZOZOマリンスタジアム内に加熱式たばこ専用エリアを設置し「煙のないスタジアム」を実現。今年に入ってからも南紀白浜空港、合掌造りで知られる白川郷、JR大崎駅などでも新たに設置している。

 今回の有馬温泉との連携もその一環だ。PMJの井上哲副社長は「加熱式たばこに変えることは多くのベネフィットがある。煙のない社会を実現するには1社では無理なので、全国の施設や観光地などと協力して広げていきたい」と話す。

 今回、加熱式たばこの専用エリアは2カ所に設置され、日帰り入浴ができる「金の湯」と「銀の湯」からともに50歩ほどの近さ。どちらも有馬温泉を象徴するひょうたんに温泉マークと加熱式たばことをあしらった赤い暖簾が目印だ。

 総工費は明かされなかったが、中心部に近い金の湯側では木材の壁に囲まれた個室感のあるスペース内に無料の足湯を併設。坂を上った奥側にある銀の湯側では腰を掛けることができ、壁には温泉の歴史を紹介したデザインを取り入れるなど凝ったつくりとなっている。

 運用開始後の評判は上々。路上喫煙、ポイ捨て、受動喫煙はもちろん、木造建築物が多い温泉街においては火災の危険性まで減らすことができるとあって金井さんは「煙のない社会を目指すことで、温泉街の美しい街並みを次なる100年、200年に残していきたい」と意気込んでいた。

 この試み、煙のようにたちどころに消えることなく、しっかりと全国に伝わって行きそうだ。

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