なぜそんなところにポツンと飲食店? 銘木の里の古民家を活用した女性店主の熱い思いとは

浅井 佳穂 浅井 佳穂

 京都市の山あいにある人口300人弱の集落に、土曜日の昼だけオープンし、こだわりの麺を提供する店があると聞きました。なぜ、そんなところにポツンと飲食店が存在するのか。週1回のみの開店時間に合わせ、訪れてみました。

 京都駅からバスに揺られて1時間余り。京都市北区中川北山町にその店はあります。

 中川地域は建材として使われる北山杉の産地で知られます。山口百恵さん主演で映画化された川端康成の小説「古都」の舞台としても有名です。

 そんな集落の築約150年の古民家にある店が「山のめんどころ」です。中川地域にある唯一の飲食店です。

 経営するのは、健康療法をアドバイスするファスティングカウンセラーの奥田貴子さん(45)=滋賀県草津市=。この古民家は、奥田さんの母方の実家で、長く祖母の岡本良子さん(昨年12月に他界)が暮らしていました。お店は2015年に開業し、奥田さんが家族や友人らと切り盛りしています。

 ファスティングカウンセラーの営む店らしく、オリジナルな麺のメニューが並びます。豆乳を使った「白味噌(みそ)カルボナーラ」や、シンプルに麺を楽しめる「めんつゆ&ごまだれ」などのほか、秋から冬にかけては限定の鴨肉を使った「かもとろろ」もあります。麺はすべてアワやヒエなどの雑穀で作ったものばかりです。

 いずれのメニューにも、中川地域よりさらに北にある小野郷地域で作られている草餅が付きます。麺がゆで上がるまでの間は、ざるに盛られた野菜をいろりで焼いて食べるなど、古民家ならではの趣向を堪能できます。

 しかし、なぜこんなところで飲食店を開いたのでしょうか?奥田さんは「少しでも地域振興になればとの思いでした」と語ります。

 中川地域はかつて特産の北山杉で大いに栄えました。北山杉は室町時代以降、茶室などの数寄屋建築の部材として珍重され、近代になると床の間に使う高級な「床柱」の用材として全国にその名をとどろかせました。「山のめんどころ」となっている古民家も、かつては杉材の商談のため全国から集まる人をもてなすために使われていたそうです。

 しかし、暮らしの洋風化に伴い茶室や床の間のある家は激減しました。統計で見ると、京都府全体の林業生産額は、1983年に101億円ありましたが、2017年には実に4分の1ほどの23億円にまで縮小してしまいました。

 林業をやめる人が増え、中川地域にはじわじわと空き家が増えていきました。そんな地域を活性化したいという思いから、奥田さんは「山のめんどころ」をこの場所に開業したと言います。

 奥田さんは「便利とはいえない場所の『秘境メシ』ですが、この地域は水も空気もおいしい場所です。ぜひ多くの人に訪ねてもらいたいです」と話しています。

 「山のめんどころ」は毎週土曜日の午前11時から午後3時まで営業しています。訪れる際には予約090-3618-6561がおすすめです。

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