静かな商店街を抜けた先に突如、赤や白で彩られた極彩色の山門が現れたのを見たときは、そのミスマッチな存在感があまりにも衝撃的で思わず笑ってしまった。瀬戸内海の「しまなみ海道」沿いに浮かぶ生口島(広島県尾道市)。島の北端近くにある「耕三寺」は、外見だけではなくその内側、そしてそもそもの成り立ちからして、いろんな意味で“規格外”の寺なのだ。
母への愛と感謝で寺を建立
耕三寺は浄土宗本願寺派の寺院。大阪で大口径特殊鋼管の製造会社を営んでいた耕三寺耕三氏が、母親である金本ヤツの死後、報恩感謝の意を込めて自ら僧籍に入り、30年あまりの歳月をかけて菩提寺として建立したという。その来歴から「母の寺」とも呼ばれている。
本堂を含む一帯は「耕三寺博物館」として整備されており、寺院の境内も博物館施設の一部として公開するという珍しい形式を採用。公式サイトによると、伽藍配置は上・中・下3段から成る境内を南北に貫く軸線を中心として厳密な左右対称となっており、全国にも例のない「耕三寺式伽藍配置」として高い評価を得ているという。さらに、山門や本堂など15棟は国登録有形文化財。境内では桜やツツジなどの花が咲き誇り、季節ごとに訪れる人たちの目を楽しませているそうだ。
豪奢な建築物に目を奪われる
威容を誇る山門をくぐると、「大慈母塔」と名づけられた五重塔など、豪奢な建築物群が目に飛び込んでくる。中でも圧巻なのは、やはり孝養門と本堂だった。
孝養門は日光東照宮陽明門の実測図を基に造られており、各部の比例も一致。浮彫や彩色などは陽明門より華麗な部分もあり、公式サイトでは「こうした点では日本一豪華な建築物と呼べるのではないだろうか」と謳う。
一方、本堂は京都・宇治の平等院鳳凰堂が原型。入母屋の屋根、切妻、寄棟、腰屋根など、仏教建築の最高峰と言われる様式を忠実に取り入れているのが特長だ。こちらも赤を基調とした華やかな極彩色が強烈なオーラを放っている。
洋館建築の傑作「潮聲閣」
こうした耕三寺の建立発願の原点ともいうべき建造物が、母ヤツの隠居所として昭和初期に建てられた和洋複合の邸宅「潮聲閣(ちょうせいかく)」。書院造を主とした日本住宅と洋館とを複合させた大邸宅で、故郷で暮らす母が安らかに老後を過ごせるよう建築したものだという。
日本住宅部分は、来客を迎える大広間よりも老人室を豪華に造ってあるなど、耕三氏の母への強い思いが随所に表れている。片や洋館は、車寄せや内装の茶色の腰板と白漆喰仕上げ、華麗なステンドグラスなど、大正から昭和戦前の洋館建築の典型例であることが窺える造り。広島県内に残る同種の建築物の中でも、規模、豪華さ、精緻さにおいては潮聲閣が突出しているという。邸内を飾る襖絵などが、名だたる日本画家によって描かれているのも見逃せない。
真っ白い大理石庭園「未来心の丘」で味わうワンダー
そして近年、SNSで映えるスポットとしても人気を集める大理石庭園「未来心の丘」。イタリアで活躍する彫刻家、杭谷一東氏が設計・制作したもので、高台にある5000平方メートル余りの敷地に3000トンの大理石を使った白く不可思議なモニュメントが並ぶ。
庭園にあるカフェの窓からは、海と島が織り成す瀬戸内らしい景色を楽しむことができる。
JRグループや広島県などは現在、せとうち広島デスティネーションキャンペーンを実施中。広島の知られざる魅力を「ミタイケン」というキーワードでつなぎ、観光PRに力を入れている。
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