レトロ銭湯の目地よ、白く美しく蘇れ!ファンの愛で生まれた謎集団「県境なき目地団」とは?

黒川 裕生 黒川 裕生

経営者の高齢化や病気などで十分なメンテナンスができていない昔ながらの銭湯に押しかけては、タイルの目地を補修して美しく生まれ変わらせていく謎の集団「県境なき目地団」が、神戸を拠点に暗躍している。10月某日、山陽電鉄滝の茶屋駅にほど近い「高丸温泉」で作業していると聞き、活動の様子を見学させてもらった。

県境なき目地団は、ムック本「旅先銭湯」などを発行する編集者にして銭湯愛好家の松本康治さんや、大工にして銭湯愛好家の徳永啓二さんらが中心となって結成。今年の夏から活動を本格化させ、神戸や姫路、淡路、広島の銭湯で目地補修に取り組んできた。メンバーは固定化しておらず、その土地ごとに近隣の銭湯ファンに呼び掛けて集めているという。ちなみに「日頃お世話になっている感謝を伝えたいだけだから」と全て手弁当である。

高丸温泉は1957(昭和32)年創業。阪神・淡路大震災や落雷、台風による屋根の破損など度重なるトラブルを乗り越えてきたが、12年前に店主の山口重男さんが亡くなってからは、妻の植岡節子さんがほぼ独りで切り盛りしている。

ただ現在77歳の植岡さんは「体力的にも限界に近い」といい、時間を短縮(15時45分頃から19時頃まで、月水休み)しながら細々と営業。窮状を見かねた松本さんが「目地の補修をさせてもらえないか」と申し出、9月上旬から週1回ペースで作業を続けているという。

作業内容は、長年の使用で傷んだり汚れたりしたタイルの目地を機械で削り取り、新しい目地材を塗り込む―というもの。定休日を利用して行われたこの日の作業でも、古い目地を削るガリガリというけたたましい音が響き、粉塵がもうもうと舞い上がる中、マスクや耳栓をした目地団員たちが黙々と汗を流していた。

「一見地味だけど、意外と重労働。それに機械がないとできないので、個人経営の小さな銭湯がここまでメンテナンスするのは事実上不可能なんです」と松本さん。「今はどこの銭湯も経営が大変ですが、目地の白さが蘇るとそれだけで気持ちが明るくなる。私たちの活動が少しでも励みになれば」と力を込める。

活動先は今後も目地団が独自に選定。あくまでも「目地団が頼んで勝手に補修をさせてもらう」というスタンスを堅持する。補修作業に興味がある人は、松本さんのTwitterアカウント(@furoikoka)まで。「自分たちの手で美しくなった銭湯の湯船に浸かる気分は格別ですよ」

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