さまざまな魅力を持つ岐阜県がなぜパッとしないのかという疑問がSNS上で大きな話題になっている。
発端になったのは下呂温泉を訪れたことをきっかけに岐阜愛に目覚めたという女性の投稿。女性曰く、岐阜にはお洒落カフェも多く、素晴らしい観光スポットや名産品もあるのに、それが外部の人に全然知られていないらしい。
そう言われてみれば僕自身も日常生活の中で岐阜を意識することはあまりないのだが、岐阜と言えばかの戦国時代の英雄、織田信長が長らく本拠を置いて天下に覇を唱えた歴史ある地。
世界遺産の白川郷(白川村)をはじめ下呂温泉(下呂市)、養老の滝(養老町)、恵那峡(恵那市)、関ケ原(関ケ原町)といった全国的に有名な観光スポットを持ち、関の刃物、飛騨牛のような名産品も数多い。
しかも、驚嘆するのが「喫茶代消費額」から「換気扇の生産量」まで数え切れないほどの「日本一」の数々!
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・喫茶代消費額全国1位
・柿の消費量日本一
・ビスケットの消費金額日本一
・農村景観日本一(恵那市岩村町富田)
・総貯水量日本一を誇るダム(徳山ダム)
・日本一大きい水車(恵那市山岡町)
・世界一の大皿(瑞浪市)
・日本一大きい天狗像(美濃加茂市)
・日本一大きい乾漆仏(岐阜大仏)
・世界一大きい狛犬(瑞浪市)
・世界最大級の淡水魚水族館(アクア・トトぎふ)
・総貯水量日本一を誇るダム(徳山ダム)
・陶磁器生産量日本一
・刃物の生産量日本一(関市)
・和傘生産量日本一(岐阜市加納地区 )
・食品サンプルの生産量日本一(郡上市)
・提灯の生産量日本一
・枡の生産量日本一(大垣市)
・盃の生産量日本一(多治見市市之倉町)
・換気扇の生産量日本一
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これだけ揃えてもなおパッとしないというのはたしかに異常事態だ。岐阜の魅力はなぜ外部に伝わっていないのだろうか?その謎を解き明かすべく、県民性に関する数々の著書を世に出している出版プロデューサーの岩中祥史さんにお話ををうかがった。
中将タカノリ(以下「中将」):岐阜の魅力がなぜ外部に伝わっていないのでしょうか。
岩中:かつて”岐阜は名古屋の植民地”という言葉が流行ったことがあります。200万都市名古屋まで電車ですぐに行けるという地理的・経済的特性、実際、岐阜に住んで名古屋に通勤している人は多い。買い物も名古屋に出たほうが最新のものが買える等が大きく影響しているようです。西を見ても滋賀県の南端を超えれば京都もすぐ。ただ、これは逆に言えば、ただの通り道でしかないということです。また、北と東は険しい山並みを隔てて富山県と長野県。行き来は容易ではないはず。海がないということもあり、「外へ」というエネルギーが湧きにくかったのかもしれません。いまは新幹線や高速道路も整備され、そうした事情はかなり改善されましたが、長い歴史の中で培われた気質はそうそう簡単に改まるものではないのです。
中将:“名古屋の植民地”ですか、その背景は?
岩中:”植民地”には植民地としての”分(ぶん)”があります。”宗主国”を差し置いたりすれば、封建時代のことですからロクな目に遭いません。分をわきまえ地味に生きていこうという考え方になっていったのはそうした背景がありそうです。日本一の生産量を誇る産品を見ても、刃物や換気扇、食品サンプル、和傘、提灯、枡、盃など、日常生活の中で主役にはなりにくいものが目立ちます。
中将:なるほど、そう言われてみると、日本一の産品も地味なものが多いですね。
岩中:その結果、どこにあるかよくわからない、県の名前が正しく書けない、魅力がないなど、さまざまなマイナスランキングを見ても、岐阜県はたいてい上位に位置することになってしまったのではないでしょうか。かといって、そうした現実を打破しようとする風は希薄な感じがします。これは言うならば”植民地根性”のなせる業のように思えます。お役人がたが懸命になっても、住民が一緒になって……ということにはなかなかなりません。
中将:いわゆる県民性というマインドに関係しているのですね。
岩中:ただ、それはそれである意味”賢明”な行き方ではないかと解釈することも可能です。今回のコロナ禍で、インバウンド(ただしアジア系の人たち)頼りの観光政策がいかにもろいかということがはっきりわかりました。そうした世の中のトレンドや流行を軽々に追いかけるのではなく、何があろうと我が道を行く──それはそれで一つの選択肢ではないかと。高山市など、いまのインバウンドブームが到来するはるか以前から、数カ国語のウェブサイトを立ち上げ、世界中から人を呼び込もうとしていました。大きく世に伝えられることはありませんでしたが、これも我が道を行く姿勢のあらわれで、長い目で見たときはプラスに働くこともあるのです。
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パッとしない岐阜…近いうち遊びに行ってその魅力に触れてみたいと思いつつある今日この頃だ。