耳の奥にがんを持ちながら、元気に暮らす犬のマロンちゃん…気がつけば診断してから2年が経ちました

小宮 みぎわ 小宮 みぎわ

もしも自分が…あるいは、飼っている犬猫が「がん」と言われたら…。

ひと昔前は、がん=死期が近いといったイメージがあったと思いますが、現在はそうではありません。がんは際限なく大きくなるために、がんが出来てしまった動物の命をも脅かしますが、がんがそのままの小さいサイズでおとなしくしていれば、「共存」できるのです。

がんの三大標準治療といえば、摘出手術、放射線、抗がん剤ですが、それ以外にも、多くの「補完代替療法」という治療があります。これら多くの治療を組み合わせて行えば、「がんがそのままのサイズでおとなしくしてくれる」という状態が可能になるかもしれないのです。もちろん、三大標準治療だけでその状態になることもありますが、そうならない場合、いろいろな治療を組み合わせて利用することを、お勧めします。

そして、補完代替療法の代表的なものが、漢方治療です。

漢方薬を用いた医学は、中医学と呼ばれています(日本で独自に発展した日本漢方もありますが…)。これはすなわち、中国伝統の医学のことなのですが、バランス医学であるとも言われています。

つまり、野球のようなものです。攻めと守りがセットになっているのです。がん治療についていえば、上に述べた三大標準治療は、攻めです。これには守りがありません。漢方治療では、この守りが可能となります。そしてもちろん、漢方治療には、攻めもあります。

がん治療における漢方の役割としては、以下が挙げられます。

(1) がん自体をやっつける=攻め
(2) がん自体による症状…例えば下痢や食欲不振などを改善する=守り
(3) 抗がん剤など西洋医学的な治療の副作用を緩和する
(4) がんを治して、再発しないための予防

また、人間ですと、自分ががんに侵されていると考えるだけで、精神的に追い詰められてしまうことがありますが、その症状を軽くすることにも、漢方治療が役立ちます。病は気からと言われますが、その通りで前向きな気持ちの持ちようが、自身の免疫を高めます。

   ◇   ◇

マロンちゃんは、この秋で16歳になるアメリカンコッカースパニエルの男の子です。

コッカースパニエルは慢性の外耳炎になりやすい犬種ですが、「炎症」が長期間続くことは「がん」発生の一因になります。マロンちゃんは、耳の奥に耳垢腺癌というがんを持ちながら暮らしています。

しかし、至って元気です。食欲も旺盛です。さすがに寄る年波で足腰がヨボヨボしてきましたが…。がんと診断してからどのくらい経ったかなぁ…とカルテをみたところ、ちょうど2年が経過していました。…2年間も、こんなに元気でいるなんて! 

西洋医学では、耳垢腺癌と診断されれば、そのがんと耳をごっそりと摘出する外科手術と、手術の後は放射線治療や抗がん剤が提案されます。しかし、耳を摘出といっても、耳は頭蓋骨の中の一部分になっており、脳にも非常に近く、また周囲に重要な神経が走っているため、場合によってはがんを完全に取り切ることが出来ません。

マロンちゃんもそうでした。飼い主さんは、完治が望めない摘出手術は希望されませんでした。放射線治療も抗がん剤治療もせず、代わりに、生活を大きく変えました。食事を完全に手作りに変え、漢方薬と抗菌作用のある生薬(ハーブ)を服用し、毎日耳を洗浄しています。

2年間、元気なのは、これらの自宅療養の効果と考えられます。もちろん、少しずつがんが広がっていることは確認できます。耳の奥のがんが厄介なのは、細菌感染がおこりやすく、臭いのする膿が出てくることです。マロンちゃんも、耳の洗浄を怠るとすぐに膿が出てきます。献身的な飼い主さんが、毎日耳の洗浄をしていらっしゃって、大変なことにはならずに今日までやってきました。

外科的に摘出することが不可能な耳垢腺癌を、西洋薬だけでコントロールしようとすると、なかなか有効な薬もないのが現状です。 

実はずっと昔に、私はマロンちゃんと同じように、耳の奥に耳垢腺癌が出来た犬の治療を担当したことがありました。その犬も、完全には摘出出来ないところに、がんがありました。当時は諸事情により、いろいろな補完代替療法による治療が提案できず、西洋薬だけで治療していたのですが、亡くなる前の数カ月は、とても辛い時間でした。

毎日耳の洗浄はしておられたのですが、耳からは絶え間なく膿が流れ出し、顔半分が腫れあがり、とても不快だったと思います。本当に、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

 マロンちゃんには、出来るだけ長く元気でいて欲しい…これは飼い主さんのみならず、私の切なる願いでした。ですから、二人三脚で治療に取り組んでおります。

   ◇   ◇

がんと宣告された場合、いろいろな治療があります。昨今はインターネットでそれらの情報が得られますが、いざその動物に適用できるかどうかなどは、補完代替療法に詳しい獣医師とよく相談されることをお勧めいたします。

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