「いくら仲良しでも、くっ付きすぎだらぁ」。
愛知県豊橋総合動植物公園「のんほいパーク」の公式ツイッターがそう、つぶやいたのは、日本列島が災害級の猛暑に見舞われていた8月中旬のこと。あらあら、仲むつまじい…と思ったら、そこに写っているのは「シロクマ」なはずなのに、全身が緑色になったホッキョクグマ。遊び疲れたのか満腹なのか気持ち良さげに寝転んでいる姿にほっこりしつつ…でも何で?何が起きてるの?と心配の声も上がりました。
動物園によく行く人ならご存知の方も多いかもしれませんが、実はこれ、夏から秋にかけて、飼育下のホッキョクグマに結構見られる現象なんです。
◇“緑グマ化”の理由は「藻」?でも、体調には問題なし
のんほいパークの獣医師、吉川さんに聞いてみました。
―緑が濃いですね!
「ええ、この写真は見事に緑ですね(笑)。普段はもう少し白みがかった緑のような気もしますが…」
―なぜ、白い毛が緑色になるんでしょう??
「実は、ホッキョクグマの毛は白ではなく『透明』。さらに、ストローのように中が空洞になっており、それが光を反射するので白く見えるんです。それが、動物園で淡水のプールで飼育していると、その空洞に藻が繁殖して、緑色に見えるんです。水温が上がる梅雨明け頃から藻の繁殖が活発化し、毛の中に入った藻が増えることでホッキョクグマも徐々に緑色になっていきます」
―体調には問題はないんですか?
「毛の中が緑なだけなので、体調には問題ありません。当園では、プール掃除と水の入れ替えは毎週しており、井戸水に塩素を加え水道水と同じ濃度にしています。しかし、夏場は塩素が揮発してしまい、プールの塩素濃度が下がるため藻が繁殖し易くなってしまいます。塩素濃度を高くすれば藻の繁殖を抑えられるかもしれませんが、ホッキョクグマの健康のため、水道水と同程度の濃度に留めています」
―“緑グマ”へのお客さんの反応は?
「『どえりゃー緑じゃん』と驚かれることもあれば、『藻が生えるもんで緑なんだに』とよくご存知の方も。ふだんは2頭の様子を見て、『仲良すぎだらぁ』『ど可愛い』『体がちんちん(※名古屋弁で『熱く』の意味)にならんように涼しいところで寝とるだらぁ』など聞いたことがあります。
この2頭、まるで夫婦のようですが、実はどちらもメスで、奥がキャンディ、手前がクッキー。ドイツの動物園生まれで27歳。キャンディはニンジンが苦手で動きがゆったり。クッキーは食いしん坊だそうです。
キャンディは繁殖目的で札幌の円山動物園に行き、昨年春、8年ぶりに戻って来たのですが、元々は仲が良かったクッキーとはお互い距離を取っている様子で、近づくと時々吠え合うことも。少しずつお互いを受け入れ一緒に遊んだりするようになり、こんなに密着してくつろぐ姿は飼育担当者も初めて見たので、2頭の今の関係性をお伝えしたいと思い、ツイートしたそうです。
◇猛暑で? 各地の動物園でも“緑グマ化”が進行
というわけで、この“緑グマ化現象”は、淡水プールを使う全国の動物園でも濃淡こそあれ発生し、夏から年末まで見られます。一方で同じ環境で生活していても、“緑化”には個体差が。例えば、大阪市の天王寺動物園では、メスのイッちゃん(6歳)はまあまあ緑なのに、オスのゴーゴ(15歳)は白いままです。同園のプールには水道水を使用し、藻の発生を抑えるため夏は水換えを週2回に増やし対応しているとのことですが、「遊び方の違い、日向にいる時間の長さ、水から上がったときブルブルっと水切りしますが、このやり方の違いかもしれません」と獣医師の西岡さん。「イッちゃんは水中に潜り込んで狭いところでゴソゴソと長時間遊ぶことが多いので毛が傷ついてしまい、毛の中に水が残って藻が発生しやすいかもしれない」と推測します。
真水なら同じなので、井戸水を濾過して循環させる神戸市立王子動物園でも、機械の不調などでプールの底や壁が緑がかるとホッキョクグマもうっすら緑に…。
一方、プールに海水を使う秋田県立男鹿水族館GAOでは、藻が繁殖せず“緑グマ化”は発生しません。なのになぜか真っ茶色になるホッキョクグマが。土の上に敷かれた木材チップの上で水切りのためゴロゴロすると途端に茶グマ化。飼育担当の田口さんによると、「大人になると茶色くなるんだ」と納得する声も聞こえてくるため、説明を心がけているそう。ちなみに茶グマは土が付着しただけなので、プールにダイブすれば即「シロクマ」に戻ります。
白さゆえ、何色にでも変幻自在のホッキョクグマ。透明で空洞の毛、黒い皮膚は、陽射しを通しやすく保温効果は抜群で、野生の生息地である北極圏の気候に適応したもの。でも最近の日本の夏は、考えられないような暑さが続いています。「緑グマになることで暑い陽射しが遮られ、暑さがましになっているかも。この方が夏は過ごしやすいのかもしれませんよ」と天王寺動物園の西岡さん。「人間は自分たちが過ごしやすいよう環境を変えますが、動物はそれぞれの環境に適応している、ということだと思います」。「緑グマ」が夏の季語になる日も、そう遠くはないかも…しれません。