台風直撃の直前に保護された、生後1カ月の子猫…間一髪で手に入れた幸せな毎日

木村 遼 木村 遼

 2019年10月の夕刻、犬のボランティア活動をしている知り合いから「近所を歩いていると、子猫が1匹でいるところを発見した」と慌てた様子で連絡が入った。周りには母猫が見当たらず、子猫を見て「早く保護しないと!」と焦ったという。というのも、その晩から大型台風接近の影響で関西地方は大雨予報。産まれたばかりの子猫にとって過酷な状況になることは容易に想像できたからだ。

 一刻の猶予も許されない状況だった。知人はすぐに自宅へキャリーバッグを取りに帰り、子猫の保護へ向かった。風が強まる中、子猫はまだ1匹でおり、そっと手で持ち上げ、無事に保護。結局母猫は見当たらず、子猫を自宅へ連れて帰った。子猫を保護できたが、知人は猫に関してはあまり知識がない。そこで相談の連絡を受けた私は自身が運営している保護スペースに空きがあったこともあり、すぐに子猫を引き取ることにした。

 知人とはかかりつけの動物病院で待ち合わせ。ここで子猫を引き受け、そのまま病院で体調の確認をした。子猫は生後1カ月ほどの女の子。とても健康的で体はふっくらしている。まるまるした顔と体がとてもかわいらしく特徴的だ。子猫は「ミャーミャー」と大きな声で鳴き、見るからに元気そうだった。

 その後、自宅へ連れて帰り、子猫との生活が始まった。まんまるした顔とコロコロした体をしていることから子猫に見たまんまの「まる」と名付けた。

 まるの隔離期間を終え、自宅で保護中のまるより少し大きな生後4カ月ほどの子猫たちと初めて対面させた。保護した猫には、猫同士で感染する病気を持っている可能性があるため、ある一定の期間隔離をする。まるは他の子猫たちを警戒することなく、いきなり遊びだして大運動会がはじまった。追いかけっこをすると体格差もあることから、まるが一瞬で追い抜かれて行く。コロコロ体型のまるが必死に走っては他の子猫たちに抜かれていく姿は、かわいらしく、いつも笑わせてくれた。

 まるの初期医療がすべて済み、私たちが運営している「NPO法人動物愛護・福祉協会60家(ロワや)」が宝塚で主催している譲渡会に参加することになった。譲渡会が始まると、早くから外で待っていた家族がまるのもとへやってきた。まんまるのまるを見ると一目惚れし、まるの里親を申し出てくれたのだ。その後、まるはお試し期間のトライアルを経て、正式譲渡となった。

 この里親さんは猫を飼うのは初めてで、まるが家中を走り回る姿に当初はケガをしないかヒヤヒヤしたという。しかし、今となってはもう見慣れた光景だ。新しい名前は蘭ちゃん。蘭ちゃんはおうちに1匹だけで自由気ままに暮らしている。里親さんも蘭ちゃんの存在にとても癒されているという。

 正式譲渡の際に、私は里親さんから蘭ちゃんの写真をパッケージにした「キットカット」をいただいた。思いの詰まったそのパッケージを見たとき、台風前に無事保護されて本当に良かったと思わずにはいられなかった。

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