来春2021年の中学入試においても、新型コロナウィルス感染防止のために首都圏を中心とした私立中の一部で導入が検討されていたオンライン入試。東京都内の私立中のほとんどが原則行わない方針となりました。先週3日、東京私立中学高等学校協会が開いた理事会で、2021年2月から始まる私立中などの入試について、「在宅で受験する形式のオンライン入試を行うことは自粛する」と取り決めたといいます。
同協会の長塚篤夫副会長(順天中学校・高等学校校長)は、協会傘下の東京私立中などで在宅受験のオンライン入試を取り止める方針を出した理由として「不正を防ぎきれない」と挙げながらも、生徒獲得のため安易に「オンライン入試」を導入する学校に対して“待った”をかける狙いがあるといいます。同協会が考えるオンライン入試について、長塚副会長にお話を伺いました。
筆記試験は公平性欠く、帰国生入試はオンラインOK
東京都内の私立中学校184校・高等学校239校の会員が所属する東京私立中学高等学校協会(千代田区)。関係者によると、「在宅受験のオンライン入試自粛」については、専門委員会で検討された内容を受けて、9月3日の理事会で決定。ただし、帰国生入試に限っては、入試日に帰国できない受験生を対象に「筆記試験の伴わない面接やプレゼンテーションといったオンライン入試の実施は可能」としたといいます。
今回の取り決めについて「入試というのは、本来、受験生が一斉に会場に集まって公正・公平性を担保する形で実施されることが原則です。ここで“自粛”としたのは、いわゆる在宅受験でのオンライン入試のこと。試験監督が不在の形で行われるオンライン入試の場合、不正が起きる可能性は高いです」などと、現時点で在宅のオンライン受験は不正を防ぐことが難しいと訴える長塚副会長。一方で、不正行為のチェックも行えるAI活用の試験監督システムなどの事例を挙げながらも、「中学入試などにおいては、社会的認知されたオンライン入試での試験監督システムが確立されていません」と指摘します。
ただ、理事会でオンライン入試の自粛を取り決めた理由は、不正防止だけではなく、都内の私立中で在宅受験が可能なオンライン入試導入の動きが出てきたことを牽制する意味もあったといいます。長塚副会長は「このまま放置しておくと、生徒の獲得競争の一環で、生徒集めのためにオンライン入試を安易に導入するところが出てくる懸念がありました。社会的に認知されていない仕組みであるオンライン入試を導入することで、私学全体が社会的批判にさらされる可能性があります。学校というのは社会的機関ですから、もし在宅入試で不正が発覚した場合はイメージダウンにつながる恐れがあります。それを未然に防ぐための取り決めでもあったのです」と話します。
こうした東京の協会の方針が打ち出され、これまでオンライン入試を公表していた私立中では在宅受験を会場受験に切り替えるなど対応に追われているようです。
神奈川・会場とオンライン併用OK、千葉・各学校の判断で
一方、近隣の神奈川県の協会ではオンラインだけの入試は原則NGとし、会場とオンラインの併用などは認めているとのこと。担当者は「オンライン入試に関しては各学校の判断となります。数百人を対象とするような一般入試の筆記試験においてオンライン入試を実施するのは難しいですし、定められた場所で試験を受けていただくことが公平性を保てると考えます。ただ、面接に関してはオンラインでも対応する学校があるかと思います」と説明します。
このほか千葉・埼玉の協会では、従来通り会場入試を原則としているようです。千葉の協会担当者は「既に方針は理事会などで決まっており、大きく変更することはございません。オンライン入試の導入は各学校の判断に任せております。」と話します。
一方、オンライン入試導入自体が議論に上がっていないという関西エリアの大阪私立中学校高等学校連合会の担当者は「自校の施設で試験を受けることが原則であり、少なくとも近畿エリア全体ではオンライン入試が話題にも上っていません。試験監督のいない在宅で受けるオンライン入試は公正・公平性を保つためにもありえないです」と指摘しています。