コロナが変えた中学受験の志望校選び 保護者たちが注目する「オンライン授業への対応力」と「通学時間」

渡辺 晴子 渡辺 晴子

今年に入り新型コロナウィルス感染の流行で、私たちはマスクの着用や、人とは一定の距離を置くといった、生活スタイルの変化を余儀なくされました。このようなコロナによる変化は、中学受験の志望校選びにも表れているといいます。我が子を安心して通わせられる学校はどこなのか…。特に来春の中学受験を目指す小学6年生のお子さんがいるご家庭の中でも、休校中や再開後の対応など各受験校の動きに注目し、志望校選びの基準を変える保護者が増えているようです。では実際、志望校選びにどのような変化が起きているのでしょうか? 小学6年生のお子さんを持つ保護者の方々や多数の受験生を教えているプロ家庭教師の生の声などを取材しました。

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新型コロナ感染症拡大防止のため全国の中学高校で一斉休校が始まったのは4月初旬から。5月下旬には政府の緊急事態宣言が解除され、現在は各学校で教育活動が再開しています。

多くの私立中をはじめ公立中の一部では、休校中から各教科でのオンライン授業動画の配信やZoomなどの双方向によるオンラインシステムを利用した授業を始めるなど、さまざまな工夫を凝らして子どもたちの学びを止めないよう努めてきました。

休校が始まった4月初旬頃から首都圏でいち早くオンライン授業を取り入れたのは、開成や聖学院、広尾学園、北鎌倉女子学園などの私立中高一貫校。その中には、朝のホームルームもオンラインで行ったり、実技教科も含め時間割通りオンライン授業を実施したりと、自宅に居ながら子どもたちが規則正しい生活を送れるような工夫も。再開後は、オンライン授業を継続しているところもあれば、短縮で対面授業を始めたり、オンラインと対面を組み合わせながら授業を進めたりしているようです。

コロナ感染の流行が始まってから各受験校の動向を注視しているのは、小学6年生の受験生を持つ保護者の方々。遅くとも秋までには第一志望だけではなく、滑り止めを含め受験校をほぼ固めていきたいといいます。これまでは志望校選びというと、偏差値や知名度をはじめ、校風などを重視。しかし、コロナ禍となった今は、保護者の中で従来の基準とは違った視点で志望校を選ぶ動きが出ているようです。例えば、各学校のコロナ禍における取り組みに注視し、在校生の保護者や各学校のホームページ、受験生向けに開かれているオンライン説明会や個人面談などから校内の情報を得ているといいます。

実際に受験生を持つ保護者の方々にお話を伺ってみると、各学校のコロナへの対応に着目して、志望校選びを再考している方も少なくありません。

例えば、「最近、オンライン対応と通学時間を基準に志望校の検討を始めた」という保護者。オンライン対応の有無や内容を参考に、なるべく通学による感染リスクを避けるため、通学時間が短い学校を選ぶとのこと。

中でも、オンライン授業を含めた、休校中の授業対応について重視している保護者は多く、「親子ともに憧れていた人気校だが、オンライン対応の導入など他の進学校と比べて休校中の対応が遅く感じたと在校生の親御さんから聞いている。緊急事態にも柔軟に対応できる学校だと思っていたのにがっかり。第一志望を変えようかと子どもと話し合っている」などと、第一志望の変更を検討しているご家庭も。

また、併願校選びに関しては「カリキュラムの良さにひかれて併願校を自宅から遠いところを考えていたが、テレワークになった夫と話していたら、『通勤・通学』にかかる時間が無駄に思えてきて。本命ならば多少の遠さは頑張れるとしても、併願校はなるべく近くの学校を考えている」など、前述の方とは別の理由で、通学時間が短い学校に変えるという保護者の声が上がっています。

もちろん、「通学によるコロナ感染リスクを志望校選びの重要なファクターとは捉えていない」「行きたい学校があるから受験する」といった、従来の基準で志望校を選ぶという保護者の声も。

校風や通学時間などを考慮して志望校をすでに決めているという男の子の保護者は「コロナ禍での各学校の対応はできる限り確認している。緊急事態のときに適切に動ける対応力があるか、生徒のために動いてくださるかを基準に見ている」と、緊急時の対応力や柔軟性などに注目。さらに、対応に問題を感じた場合は「志望校から外すといったことはあるかもしれない」と話しています。

公立志向の強い岡山でもオンライン授業などを導入した私立中に評価高まる 

各学校のコロナへの対応などに敏感な保護者がいるのは、“中学受験熱”の高い首都圏だけと思われるかもしれません。しかし実際は、地方の中でもオンライン授業などを実施した学校の対応を評価し、志望校に入れるといった動きもあるようです。

岡山県倉敷市を拠点に活動している、プロの家庭教師で元大手塾教室長の小畑勝稔(こばたけ・かつとし)さんによると、公立中高一貫校の人気が高い岡山でもコロナへの対応という点で私立中に対する保護者の評価が高まったといいます。

例えば、ICT教育に力を入れている就実や伝統校の清心など岡山県内の私立中高一貫校の多くは、早くからオンライン授業に切り替えるなど生徒や保護者の不安を払拭するような取り組みをしていたとのこと。逆に、公立校は政府が緊急事態宣言を解除するまでそれらの動きがほとんど見られず…。解除される直前になってようやくオンライン授業も始めるような流れだったといいます。

「今回のコロナ禍で、私立と公立で対応の速さの差が明確になったのでは」と小畑さん。「私立校をもともと志望校として視野に入れなかったご家庭が多かったのですが、志望校に入れようという考えに変わってきたかなと肌で感じています」などと、コロナ前後で保護者の意識が変わったことを指摘しています。

さらに、今後の志望校選びについて「休校に入ってオンライン授業に切り替えるなど私立中のコロナへの対応の速さが評価されたわけですから、今後も対応力や柔軟性のある学校に注目が集まると思います。進学実績だけではなく、ICT教育など時流に敏感な学校に人気が集まってくるでしょう」と話してくれました。

これから「中学受験の天王山」といわれる季節がやってきます。コロナ禍での初めての夏。受験生を持つご家庭は落ち着かないかもしれませんが…納得のゆく志望校選びしていただき、少しでも早めに目標を設定され来春の合格に向かって勉強に取り組める環境が整うことを願っています。

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