野外フェス、厳戒態勢の開催から2週間「感染者なし」を発表 プロデューサーが語る覚悟の舞台裏

黒川 裕生 黒川 裕生

――注目度や寄せられる期待の大きさは半端なものではなかったと思いますが、渦中にいてどんなことを感じていましたか。

「僕らのやり方がスタンダードになってほしくない、と思っていました。他の主催者も、感染状況や地元との関係性などを考慮して泣く泣く諦めた人がほとんどでしょう。僕らだって来年以降のことを考えたら、今回は開催しない方がよかったのかもしれない。いろんな人に注目されて、『大丈夫?』と心配もされましたが、もちろん全然大丈夫じゃなかったです」

「それと、やってみたら少しは光明が見えるかなと思ったけど、ぶっちゃけ、野外イベントに関しては光はあんまり見えていなくて。スタンディングの柵もそうですけど、今回は『開催すること』を最優先したことで、お客さんにはものすごく不自由を強いてしまいました。10のうち9くらいを縛られていた感覚です。ただ、ステージはああいう形でしか用意できませんでしたが、例えば出演してくれたSiMのボーカルMAHくんの『これ「が」良かったのではなく、今はこれ「で」良かった』という言葉なんかは、とても腑に落ちました。こんな状況でも、やれる方法はいくらでもある。僕らは『野外イベントの上限5000人』といった国の指針をきちんと守りながら、こういう形で開催したというだけのことです」

上限5000人で、収支はどうなる?

――例年のキャパ2万人に対して、初日の来場者は5000人、2日目は3000人でした。

「フェスの運営にお金がなんぼかかるか知っている人から見ると『大赤字じゃん!』となるけど、そんなわかり切った負け戦をやるわけがない。最終的にはトントンを目指して、今いろいろ調整しているところです。でもちょっと赤字かな…。どうやったってボロ儲けにはなりませんよ。やっぱり上限5000人というのがすごく足かせになっていますね。今回目指すゴールは『感染者ゼロ』と、『赤字じゃないこと』。感染者は出るわ赤字だわ、だと『お前ら何しとんねん』となるでしょう」

――来年の開催はどういう形になると思いますか。

「基本的には、以前のような形に戻したいです。ただ、ダスキンさんに入っていただいたことは、衛生管理の大切さをあらためて考えるきっかけになりました。熱中症が少なかったのも、ひとりひとりが自分の身を守ろうという意識が強かったからかもしれません。来年に引き継ぐとしたら、そういう健康に対する『意識』の部分。それ以外は全部フラットに戻したいですね」

「来年は2019年に近い形でやれるようになっていてほしいというのが、全ての関係者の願いです。でもそのためには、2020年に誰かが野外フェスを一発やっといた方がよくないか、来年いきなりゼロベースでやるのは厳しいぞ、という思いは強かったし、それが開催に動いた動機のひとつでもありました。なんでこんな状況でわざわざ野外フェスせなあかんの、と言う人もいるかもしれないけど、海に行ったり、キャンプに行ったり、ショッピングしたりするのと同じです。今年の夏、若者たちはたくさんの楽しみを奪われて本当に気の毒。野外フェスがひとつくらいあってもいいじゃないですか」

――来年も今年と同じことをしないといけなくなったとしたら。

「ちょっときついな…。同じことはやりたくないですね。でも今の状況で未来を判断するのは、あまり意味がないと思います。来年になったら全然違う状況になっているかもしれない。とりあえず、柵は全部取っ払えたらいいなとは思っています」

異例ずくめの2020を検証して2021へ

――今回の経験を踏まえて、同業者に伝えられることは何かありますか。

「こんな形でしかできなかったことをまずは謝りたい。もっとやり方はあったと思うんですよ。いろんな人に『素晴らしかった』と言っていただけた一方で、これは来てくれた人が一番わかっているはずですけど、窮屈な部分が多いフェスになってしまった。『この柵、何なん?』みたいな違和感を抱かせてしまったことは、申し訳なかったと感じています」

「感染者を出さずに2週間経過して無事に9月14日を迎えられたら、そこからは『来年に繋ぐためにこんなことをやりました』ということをどんどん発信していきます。そうじゃないと、これだけ苦労して野外フェスを開催した事実も、世間からはすぐに忘れられてしまいますから。今年のガッチガチにやった感染対策の是非をきちんと検証して、来年に繋げたいと考えています」

2週間沈黙を守ってきた力竹さんら主催者は、9月14日午前11時、前日夜までの感染状況などを踏まえ、「RUSH BALL 2020」が無事に終わったことを発表した。

■RUSH BALL 公式サイト https://www.rushball.com/

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