保護犬のボランティアのひとつに譲渡先が決まるまで家庭で預かる「一時預かり」があります。兵庫県芦屋市在住のUさんは一時預かりを頼まれて、1頭のミックス犬を受け入れました。初めて会ったとき、おどおどと臆病だったその犬がびっくりするほどの自己主張をしたことがきっかけで、なんとUさんに譲渡されることになりました。
一時預かりを引き受けたら…
Uさんのもとに以前から交流のあった芦屋市の動物愛護団体から、保護犬の一時預かりの依頼がきました。2016年にこれまで飼っていた黒ラブを亡くし、その時は犬のいない生活を送っていたので、受け入れることにしました。
2018年春、その保護犬がUさん宅にやってきました。推定5歳の女の子。飼い主さんが病気で入院し、世話ができず、庭に姉妹2頭で放置されていました。「近所の方が庭でお世話をしていましたが、そのままにしておくこともできず、保護されることになったそうです」とUさんは振り返ります。
最初はおどおどしていた
その保護犬はUさんの家に温かく迎え入れられました。しかし、おどおどして、ちょっとした音などにもびっくりし、キャーンと声をあげてしまうような性格。それまで姉妹でくっつくように暮らしていたので、寂しかったのかと思ったら「保護が決まり、それぞれの預かり先が決まった途端、2頭はケンカをするようになったそうです。もう、一緒にいることはできないことを悟ったからなのか、近所の方もその変わりように驚かされたようです」とUさん。
周りの人間の機微を敏感に感じ取るぐらいですから臆病な性格は変わりませんでした。数日たって、所用で数時間、家を空けなければならなくなったUさん。1頭で留守番をさせておくのは不安なため、受け入れた愛護団体にその時間だけ預かってもらうことにしました。「迎えがきて、車に乗せられていくときも、淡々としていました」
数時間会えなかっただけなのに
愛護団体に戻ったその子は、庭で世話をしてくれた人に会っても、これまで通り、とても冷静だったそうです。そういう性格の犬なのだと思っていましたが、Uさんとの再会で見せた姿にみんながびっくりすることになります。
何と、わずか数時間会えなかっただけなのに、迎えにきたUさんの姿を見たとたん、これまで見せたことのないほどの大騒ぎ。Uさんに飛びつかんばかりに駆け寄り、顔をなめて大喜びしました。「みんな、エッ?こんな子だったの?というくらい、これまでと全く違った側面をみせたのです」
まだ「一時預かり」と考えていたUさんですが、それを見た愛護団体の人は、この子の家はUさんのところしかないと感じたようです。このことがきっかけで、Uさんも喜んで正式譲渡を受け入れました。
今では弟分の教育係も
「今後、黒ラブを飼うことも決めていましたが、この子の性格なら、きっとうまくいくだろうと考え、わたしの主人ともじっくり話し合い、迎えることを決めました」。そして、その子は「はっち」と名付けられました。
はっちちゃんが来て、1カ月後、黒ラブの子犬を迎えることになりましたが、予想通り、はっちちゃんはやんちゃんな子犬に動じないお姉さん犬としてふるまっています。「まるで生真面目な教育係。ひょうひょうとしているけれど、叱るときはしっかり叱ってくれます」とUさんの信頼も得ています。
いまでは黒ラブのまさ君のお姉さんとしても、幸せな生活を送るはっちちゃん。あの時、はっちちゃんが自分の居場所をはっきり意思表示したらからこそ、つかめた幸せなのかもしれません。