一般馬を相手にデビューから2連勝を飾った“熊本の星”ヨカヨカ(牝2=谷)が注目を集めている。この29日には小倉競馬場で行われる「ひまわり賞」(九州産限定、2歳オープン、芝1200メートル)に必勝を期してスタンバイ。無傷の3連勝とし、来春の「桜花賞・G1」への確約切符を取りに行く。そこで生産者の本田土寿(つちとし、59)さんに取材した。
無理せんでよか、ということか。一般馬を相手にデビューから2連勝を飾り、当然のように「小倉2歳ステークス・G3」に向かうと思われたヨカヨカは“九州産のダービー”こと「ひまわり賞」を選んだ。勝てば、桜花賞まで出走可能な収得賞金を加算できる。ネットの反応も「フェニックス賞を好時計で勝ったのにまさか、ひまわり賞とは」「小倉2歳ステークスを勝ってほしかったけれど、この時期だし、無理しない方がいいのかも」と様々だ。
もちろん、専門家も注目している。九州産馬が小倉2歳Sを制覇したのは1998年のコウエイロマンが最後。この馬を管理していた元調教師の橋口弘次郎さんも「ライバル陣営はがっかりしているんじゃないですか。それほど勝ちっぷりがいいし、馬体もいい。2歳ステークスに出ても十分通用しますよ」と高評価。「わたしも九州産だから引退するまで九州産馬を応援しましたが、このヨカヨカは能力が相当高いですね」と話している。
ここまで注目を集めるのも当然か。そのネーミングもさることながら6月13日、阪神競馬場での新馬戦では並みいる良血馬を撃破。アタマ差ながら最速の上がりで差し切った。九州産馬が限定戦以外の新馬戦を勝つのは実に3年ぶりのこと。しかも、そのとき2着だったモントライゼが次走の未勝利戦を1秒7の大差で勝ち上がったことで一段と評価は高まった。
その評価を不動のものにしたのが8月15日、小倉競馬場でのフェニックス賞だ。好スタートから先手を奪うと4コーナーで少し膨れながらも最後の直線もしっかり伸び、2連勝。熊本産馬が一般の平地オープンを勝つのは84年のグレード制導入以降では初めての快挙でもあった。
そのうえ、勝ち時計の1分7秒9(芝1200メートル)は翌週に行われた古馬の「北九州記念・G3」とわずかコンマ1秒差で、馬場状態が違うとはいえ、2着だったG1馬のモズスーパーフレアをしのぐほど。これには主戦の福永祐一騎手も「時計も速かったですし、九州産馬のなかに入れば、力は一枚も二枚も上」と話している。
もちろん、生産者の期待も大きい。ヨカヨカは父スクワートルスクワート、母ハニーダンサー、母の父デインヒルダンサーという血統。牧場長の本田土寿さん(熊本市東区戸島町)に現在の心境などを聞いてみた。
―生まれたときは、どんな様子でしたか?
「遅生まれでしたが、体のバランスがよく、牝馬の割に骨格もしっかりしていた。性格は素直で扱いやすかったですね。血統もファインモーションやジャパンカップを勝ったピルサドスキーなど筋が通っています」
―順調にすくすくと育ったんですね。
「1歳半まで牧場にいて、その後はJRAの宮崎育成牧場へ。うちにいるときから動きは機敏で筋肉もつくべきところについてスピード体型になっていきました。でも性格は、いまみたいに気が強くなかった。レースに行ったら負けん気が凄いですよね」
―すべてがいい方向に向いたようですが、ここまで走ると思っていましたか?
「2歳の4月にブリーズアップセールで見たときはビックリするほどの体つきに。上場された22頭の中でも1、2位を争うほどの馬っぷりでした」
―栗東トレーニングセンターに入厩してからも評判でした。
「岡浩二オーナーに、いい名前をつけてもらい、谷先生(調教師)にもよくしてもらっています。入厩後は競馬ブックやJRA-VANを通じて時計を確認してたばってん(していた)が、新馬戦前の追い切りの動きに記者さんがどよめいた、と谷先生から聞き、期待はしていました」
―ところで、競走馬の生産はいつからですか?
「子どものころから西部劇に憧れ、小4のときに牧場を経営していた家族にねだって、小牛4頭と引き替えに野生馬を28万円で買ってもらったのが馬との出合い。毎日のように馬に乗って村を1周していました。馬は食べているときの仕草がかわいいし、走ると美しい」
―生産者になるのは自然の流れだった?
「高1のときにはセリ市をのぞくようになっていて、20歳のころにアラブ種を生産するように。そこからサラブレッドに移っていきました。かれこれ40年近く生産に携わっています」
―今度のひまわり賞では牧場の3連覇がかかっていますね。
「使うレースはオーナーと先生が決められたもの。わたしはどのレースだろうと全力で応援させてもらうだけです。重賞レースは今年の京都新聞杯イロゴトシの5着などがありますが、まだ勝っていないので、いつかは勝ちたいですね」
―熊本は地震もあり、今年は水害にも見舞われました。
「地震では厩舎の瓦や壁が割れたり、ひびが入ったりしました。水害の影響はありませんでしたが、友人に救援物資を届けに行きました。こんなときなので、明るいニュースを、と地元のテレビ局もヨカヨカのことを取り上げてくれています。微力ですが、ヨカヨカのがんばりに元気をもらってくれればと思います」
―今後につながるレースを期待しています。
「まずはケガなく無事に。マイル(1600メートル)までは持つと思うので、桜花賞などグレードレースに夢を持てるような走りを願っています」
ヨカヨカはフェニックス賞後は小倉に滞在。26日には順調に追い切りを消化した。ひまわり賞から桜花賞へ。夢は広がる。