庭先に現われた“パッツン前髪”の子猫 環境になじめず里親辞退の危機→なぜか急に甘えたに変身

木村 遼 木村 遼

 宝塚市在住のKさんが保護した子猫は、個性的なヘアスタイルをした“イケにゃん”君だった。譲渡会に参加すると、ある家族にだけ心を許し、トライアル(譲渡前のお試し期間)がスタート。ところが、環境の変化で家族との距離が縮まらず、一時は里親辞退のピンチに。そのとき、イケにゃんがとった行動とは…。

 2019年7月のことだった。ふだん夜に出歩くことがないというKさんだが、この日はたまたま外出していた。友人宅の前を通りかかると、庭にいた1匹の子猫を発見。まだ小さな子猫で、Kさんは「この子を保護してあげたい」と思った。というのも、Kさんには過去に自身で子猫を保護し、譲渡した経験があった。この子も同じ様に里子に出せれば、と考えたのだ。夜も遅く、この日は庭にいる子猫が気になりつつも帰宅した。

 翌日、子猫がいた友人宅を訪れた。昨晩、庭で子猫を見かけたことを伝えると、友人は自宅の敷地に子猫がいることに驚きながらも捕獲に協力してくれることになった。夜になると、庭に子猫が1匹で現れた。空腹だったのかすぐに捕獲は成功し、無事保護することができた。子猫は生後3カ月ほどのオス猫で、健康状態は良好だ。

 特徴的な柄をしており、前髪に見える額の黒色模様はまるでパッツンヘアーだ。Kさんは、この子に早く里親さんが見つかって欲しいと思いを込めて「コタロウ」と名付けた。ある猫マンガで、名前に「こ」という文字を入れると里親さんが見つかりやすいと紹介されていたそうだ。

 コタロウは保護して4、5日の間は威嚇が激しく、全く触ることができなかった。Kさんが距離を縮めようと近づくと、フーフーと威嚇する。はじめは懐くか不安もあったが、コタロウが食事に気を逸らしている間に少し触ることを続けていると、徐々に心を開いてくれた。そこから数日も経てば、慣れ慣れの甘えたになっていた。

 Kさん宅で飼っている猫ともすぐに仲良くなり、猫好きであることも判明。ただし抱っこされるのは苦手で、Kさんには心を許すが、それ以外の家族には体を左右に動かして嫌がる仕草をする。

 コタロウは初期医療がすべて済み、里親募集をすることになった。筆者が運営している団体NPO法人動物愛護・福祉協会60家(ロワや)が宝塚で主催している譲渡会に参加した。譲渡会では、数組の家族がコタロウに興味を示してくれたが、当の本人であるコタロウは緊張からかご機嫌斜めの様子。もちろん抱っこなんてもってのほかだ。

 そんな中、ある家族がコタロウに近づいてきた。ケージ越しにコタロウを見つめると、さっきまでの様子とは何かが違う。家族は抱っこを希望し、Kさんはコタロウをケージから出して家族に預けた。すると、コタロウは嫌がることなく抱っこされたのだ。これまでKさん以外の人が抱っこをすると嫌がっていたこともあり、Kさんはこの反応に驚いた。

 この家族と面談し、トライアル(譲渡前のお試し期間)が決まった。トライアル先には先住猫がいたので最初はコタロウに一部屋与え、そこで環境に慣れてもらってから先住猫と対面してもらうことになった。

 しかし、コタロウは新しい環境になかなかなじめなかった。部屋の中では暴れ回り、網戸が外れるほど。かと思えば、毎晩酷い夜泣きが続き、家族は見るに見かねてトライアルの窓口である私たちに電話で相談してきた。

 電話をしている傍にはコタロウがいた。優しい家族で、コタロウのことを凄く心配していた。私達は、トライアル中止の申し出があった場合は引き受けるつもりでいたが、家族はもう少しだけ様子を見たいと伝えてくれた。翌日になると、コタロウの様子に変化が見られた。まさか、昨晩の電話を聞いていたわけでもあるまいが、いままで距離を取っていたのに家族に甘えるようになったのだ。

 その後は順調に家族、先住猫に慣れ、無事正式譲渡なった。新しい名前は「かっつん」。由来はパッツン前髪で、ぱっつんじゃそのままになるため、男らしく「かっつん」にしたという。でもこれはあだ名で、本名は「かつ」だという。

 電話相談後の急な展開に家族は「かっつんは、電話内容を聞いていたんじゃないのか?」と笑い話にしている。家族はその後、ボランティアに興味を持ち、親子で当団体のボランティアに来てくださっている。現在のかっつんは、先住猫に対して優しくて甘えたな性格。いつも誰かと一緒にいて「我が家のアイドル」だそうだ。前髪は毎日キチッとそろっていて、いつも家族に笑顔をもたらしている。

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