先日、「ツーブロック」の髪型を禁止する東京の公立高校の校則が話題になり、「事件に巻き込まれる恐れがある」という理由が波紋を呼びました。さらに、実際の校則指導は、現場の教員らの裁量に任されていることが多いのも実情です。ある工業系高校に通う1年の男子生徒も、「生徒のため」として厳しい指導を受けた一人。その内容は、わずか1ミリ程度に伸びた爪が「校則違反」というものでした。
思わずツイッターで写真付きで呟いたところ、「ブラックだ」「これでダメなら剥ぐしかない」との声や「ネイリスト的には、自爪なら100点満点。清潔感があって爪としての働きもしっかりしてくれる長さ。これ以上は深爪」という意見が寄せられました。
―かなり厳しい指導に感じます。
(男子生徒)「校則の中に『爪を長くしすぎないこと』という項目があります。工業系の高校なので、機械を使う実習もあり爪が長いと事故が起きる可能性があるため、生徒からも理解はされています。でも『何ミリまで』など基準が曖昧で、検査をする教師によって差があるので、不満を持つ人も一定数います」
―写真を見るとかなり短いように思いますが、指導を受けて切ったのですか?
「指摘された先生には『この長い状態だとウイルスや菌がたまる』と言われました。その翌日に他の教師に説明したら『今回は校則違反ではない』と言われたので切りませんでした。これ以上切ると深爪になり、カッターとかの刃物を使うときに切ってしまって痛くて…」
「指導は“先生の一存”」に不満も、就職や進学懸念し「誰も動けない」
―入学前の学校説明会などで、こうした校則について説明は?
「志望校を決める中3の7月の説明会では『爪についての校則はない』と言われました。でも、爪以外にも『部活は1年次のみ必須』と言われていたのが、入学してみると『3年間必ず入るように。この高校ができたときからこのルールはある』と言われるなど、説明会のときの話と全然違う…と感じることが多いです」
男子生徒によると、学校には他にも「靴下は黒、白、グレーの単色」(ワンポイントやブランドロゴ、ラインが1本でもあればアウト。理由は「外部の人が来たとき良くない評価をされる可能性があるため」)▽「もみあげは耳の穴より上の位置まで剃る」「独特な髪型(ツーブロック)は禁止」▽「ベルトは黒か紺色のシンプルなもの」―などがあるそう。ただ、黒のベルトをしていたり、前髪等に問題が無かったりしても「校則違反」と言われる生徒もいるといい「先生の一存で決まっているのが実情だと感じる」と憤ります。
さらに「バイトやスマホに関する規定を含め(校則を)変えたいと思っている生徒は多くても『教師が気にくわないようなことをしたら就職、進学に良くない影響が出るのではないか?』と考えるため誰も動けない、動こうとしないのが現状です」と打ち明けました。
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爪の長さについて、複数の工業系高校に聞いたところ、校則に記すかどうかは学校ごとの判断といいます。校則に定めていない高校の教諭は「実習の時は危ないので、マニュアルに記した上で、直前に短く切るよう指導しているが、それで足りている」。これに対し、別の教諭は「かつて荒れたことがある学校や、反抗的な生徒が多い場合は『教師の指示を聞けなければ事故が起こりうる。指示を聞くようにさせるため厳しい校則や指導も必要』という意見もある」といいます。また「万が一事故が起きたとき、責任追及される可能性を視野に、きっちり校則として指導した方が無難―という考えもある」と打ち明けます。
こうした問題について、校則や学校改革に詳しい、苫野一徳・熊本大学教育学部准教授(教育学)は「率直な印象としては、これらのルールには一定の合理性や妥当性もあるとは言えるかもしれないが、高校生にもなって、一方的に従わせ続けることには大きな問題がある」と指摘。「将来市民社会の担い手として、自分で考え、自分で判断し、多様な価値観の人と共に社会を作っていく経験を積むべき年齢なのだから、本来であれば、学校やルール作りもまた、生徒が主役になってやっていく必要がある」と主張します。
その上で、以下のように指摘しています。
「コントロールの対象」から「将来の市民として対話」を
地毛証明や髪型、下着の規制など、いわゆる“ブラック校則”が続く背景には、手綱を緩めれば風紀や学校が荒れる―という学校・教員側の思い込みがある。その反対の実例は、国内外に山ほどあるのに。内心『不条理だな』と感じる教員は少なくないが、生徒に『なぜ守らなければならないんですか』と聞かれても理由をうまく説明できず『決まっているのだから、従え』と指導するしかない。
一方、生徒の側も「規制が当然」という環境で育ったため、例えば「制服がないなんて考えられない」など思考停止状態に陥ってしまう場合が少なくない。たとえ人権侵害としか言えない校則があっても、最初は抵抗しても、次第に何も考えずに従う方がラクで、進学や就職にもいい―と考えるようになってしまう傾向がある。
まずは、生徒と教員(学校)とで、校則を含め、学校のあり方について定期的に話し合う場をシステムに組み込むべき。これは過剰な校則検査に費やしてきた時間を削減できるという意味で、教員の働き方改革にもつながる。熊本市では対話を経て「生徒が学校づくりのオーナーシップを担う」という高校改革が始まりつつある。こうした国内外の様々な情報を、子どもや教員がまずは知り、いったん自分たちの立ち位置を見直すことが必要ではないだろうか。