米大リーグの名将、トニー・ラルーサ氏に命を救われた犬 コロナ禍の家族を癒してくれるフィン君

岡部 充代 岡部 充代

 フィン君は米カリフォルニア州にある『アニマル・レスキュー・ファウンデーション』(正式名称:Tony La Russa's Animal Rescue Foundation、通称:ARF)という動物保護団体にレスキューされた犬でした。

 ARFは米大リーグで長く監督を務め、ワールドシリーズ・チャンピオンに3度導くなど名将として知られるトニー・ラルーサ氏が設立した団体。田口壮さん(現オリックス一軍コーチ)がカージナルスでプレーしていたときの監督、といえばピンと来る人もいるかもしれません。今は大谷翔平選手が在籍するエンゼルスのシニアアドバイザーという肩書です。

 そのラルーサ氏がなぜ動物保護団体を設立したかといえば…。アスレチックスの監督だった1990年5月、ヤンキースとの試合中に1匹の猫がグラウンドに迷い込み、ゲームが中断する騒ぎがありました。その猫は捕まりシェルターに収容されることになったのですが、当時、サンフランシスコのベイエリアにあるシェルターでは収容した動物の大半を安楽死させていたそうです。それを知ったラルーサ監督は猫を連れて帰り、チームのオーナーにちなんだ名前を付けて新しい家族を探したとか。そして、この一件をきっかけに、「家がない犬や猫のためのNo-Kill(殺処分しない)シェルターを」と、莫大な寄付をして団体を設立したのでした。

 

 フィン君はそんなARF出身のレスキュードッグ。つまり、トニー・ラルーサ氏に命を救われた犬、というわけです。新しい家族と出会ったのは2019年11月。隣町に住むウェブスター家にやって来ました。春までは2頭のシェットランド・シープドッグ、エリーちゃんとミッシーちゃんがいたのですが、1か月のうちに相次いで亡くなり、半年が過ぎた頃でした。

「娘が『クリスマスプレゼントは何がいい?』と聞くので、冗談半分に『箱を開けたらパピー(子犬)が飛び出してくる動画がよくあるわよね』と言ったら、『すぐに探そうよ』って。エリーとミッシーがいなくなって散歩にも行かなくなったし、何より家の中が静かだったので一緒に探し始めたんです」

 日本人の奥様、理恵さんがそう教えてくれました。

 

 アメリカでは日本のようにペットショップで犬や猫を販売することはありません。飼いたいと思えば公共のシェルターやレスキュー団体から譲り受ける、またはブリーダーから購入するのが一般的。ちなみにエリーちゃんはブリーダーから、ミッシーちゃんはレスキュー団体から譲渡された犬でした。

 新しい家族を探し始めて2週間後、運命の出会いが訪れます。ARFのホームページで気になる子を見つけて問い合わせると、「さっき決まった」との返事。その代わり「夜9時に情報をアップデートする」と教えてくれました。

 9時ピッタリにアクセスすると、フィン君の情報が公開されていました。イングリッシュ・スパニエル・キャバリアのミックス犬で、推定2歳の男の子、体重と去勢手術済というデータだけで、写真はなかったそうです。それでも「気になった」理恵さんは翌朝、近くで開催される譲渡会に朝一番に行きました。今度は出遅れるわけにいきません。

「フィンを一目見て気に入りました。朝イチに行って良かったです(笑)」(理恵さん)

 

 フィン君と暮らすようになって約8か月。家に来た頃に比べると、顔つきが変わったと言います。

「人見知りがすごくて、知らない人が来るとしばらく吠えたり、散歩中にイヤな人に会うと唸って歩けなくなったりしますけど、表情は穏やかになりました。私たちの顔や手を舐めまくるのは、人恋しいからかなと思うんです。前の2匹には見られないことでした」(理恵さん)

 コロナ禍で自宅にいる時間が増えた今、「やっぱり犬がいると違いますね」と理恵さん。動物に癒されるのは世界共通のようです。ただ、日本とアメリカには決定的な違いがあります。それは、ステイホームが叫ばれていたとき、日本ではペットショップの売り上げが伸び、アメリカではシェルターの動物たちがいなくなった(みんな譲渡された)ということ。

「コロナが収束した後も戻さずにいてくれるかという懸念はアメリカにもありますけど、日本のようにペットショップで生体販売されているよりはいいですよね。あれはやめてほしいです」(理恵さん)

 日本のペット流通の仕組みが変わるのは、まだまだ先かもしれません。でも、終生飼養の原則は今も同じ。ショップで買った子と施設から譲り受けた子に差はありませんし、もちろん世界共通です。

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