世界中に広がる新型コロナの脅威。東ヨーロッパに位置するベラルーシでも感染が拡大したが、この国では「ウォッカで予防」「屋外に出よう」といった提言がなされ、国民が生活のペースを大きく変えることはなかった。「ステイホーム」などの手法でウイルス蔓延を抑え込もうとした日本から見れば奇抜にも感じられるが、なぜこのような施策がとられたのか?同国出身者の見解は…。
私の母国ベラルーシは東欧の小さな国で、人口は900万人そこそこです。ご多分に漏れず、長い歴史を有しているのですが、国として独立したのは1991年のソビエト崩壊以降。それ以前は他の州や国の一部であることが多かったのです。
そういう背景があることと、地理的に「ヨーロッパの中心」であることから、貿易の重要拠点でもあったので、さまざまな人種が行き交い、東からはロシア正教、西からはカトリック、そして近隣のバルト文化やイスラム教などの文化流入もありました。
とはいいつつも、別文化に自国文化が淘汰されず、重要なところは絶えず生き延びており、例えば、食文化でいうと、ロシア・ウクライナ地域から「ボルシチ」(スープの一種)が流入しましたが「ドラニキ」(じゃがいも料理)という国民料理も忘れず食べ続けています。
言語文化でいうと、元々外国語であったロシア語が公用語に格上げされながらも、ベラルーシ語も変わらず母国語兼公用語なのです。様々な文化を取り入れている現代日本人からすれば、当然と思われるかもしれませんが、大陸国家でこのような多数の文化の侵食にも負けず、自国文化を生き延びさせるのはかなり困難なことだったりするのです。
このことからベラルーシは他国から「穏やかで平和的」であったり「他文化に対して友好的かつ忍耐強い」という評価を受けています。
という前置きはさておき、ここでは私の母国の新型コロナウイルスへの対応策を紹介します。全世界が直面している危機でもありますから、みなさんもできるだけ様々な国の多種多様な情報がほしいのではと思い、この記事を書いています。
ベラルーシのルカシェンコ大統領はコロナ対応策として様々な提言を行い、全世界から注目されることになりました。目を引く一部だけが注目されがちだと感じたので、その提言内容の全貌を簡単にわかりやすく紹介したいと思います。
【食事に関する提言】
1)ウォッカで予防せよ!
勤務時間外で40〜50グラムを飲んで体内のウイルスを抹殺しよう
2)正しく食べよ!
予防のために、正しく食べよう。肺の強化には、バターなどで脂肪分を摂ろう
【仕事に関する提言】
1)外で仕事せよ!
トラクターに乗っての仕事などをすれば健康的である
【レジャーに関する提言】
1)ドライサウナに入ろう!
ドライサウナの高温で感染症を防ごう
2)焚き火を囲もう!
火の煙を吸い込むことは効果的かもしれない
3)外に出てスポーツしよう!
4)アイスホッケーをしよう!
【衛生に関する提言】
1)屋外に出よう!
多くの人が密集する室内ではなく、新鮮な空気に触れた方がいい
2)よく手を洗おう!
日本では奇抜な対策として取り上げられたようですが、ルカシェンコ大統領が伝えたかった内容は、コロナを克服するには、免疫力を強化し、健康的なライフスタイルを維持すること。パニックになるのではなく、よい衛生状態を維持すること。このことを繰り返し述べています。毎日計画を持って活動をし、新鮮な空気を吸って外で歩き、心地よい感情で日々を生きることが重要であるということです。
たとえば、5月9日には「勝利の日」を記念して、首都ミンスクでパレードが開催されましたが、これも計画を持って生活をしようという一環です。「勝利の日」はベラルーシ人にとって、大変素晴らしい日であり、退役軍人だけでなく、その子供、孫、そしてひ孫たちのためのイベントでもあります。
記念日は戦後ずっと旧ソ連諸国で盛大に祝われてきましたが、今年は新型コロナ禍のため、多くの国で中止が相次ぎ、いまのところ、ベラルーシとトルクメニスタンでのみ開催されました。ルカシェンコ大統領は子孫が、平和を象徴する頭上の青い空のために命を捧げた兵士たちの記憶を称えることができるように、パレードを開催すべきだと判断したのです。
新型コロナウイルスは感染症・経済・政治・情報の「4つのパンデミック」をもたらすとよく言われますが、ルカシェンコ大統領はベラルーシがパンデミックのいずれにも負けないようにとの政策をとっています。そのため、異例かもしれませんが、現在でも、ベラルーシ人は、衛生の基本原則を順守することを前提に学校、大学、仕事場だけでなく、娯楽施設にさえ行く機会があります。そして、驚くことに、国境を封鎖することもありませんでした。
2020年6月9日現在までの公式データによるとベラルーシでの新型コロナウイルス感染患者の総数は4万9453人(日本1万7210人)で、死亡者数は276人(日本916人)でした。政治は結果だといいますが、これをどう捉えられるかは人それぞれだと思います。冒頭で紹介したようにベラルーシの人口は900万人そこそこで、1億2000万人を超える日本とは大きな差がありますから尚更です。
いずれにしろ、資源も乏しく、先進国と比べれば経済力も欠いている私の母国は、生活のペースを大きく変えることがなかったのです。