液状のり?いいえ違います!企画書スルーから始まった"アラビックリ”な蜂蜜 即完売大ヒットの裏側

広畑 千春 広畑 千春

 のりじゃないよ、蜂蜜です―。誰もが小さいころからお世話になっている、赤いふたに半透明の容器の液状のり「アラビックヤマト」にそっくりの「はちみつアラビックリ?ヤマト」が話題を集めている。新型コロナの影響で生産量が限られた状態ながら、1000本が初回は3分、15日正午に始まった予約販売も4分で完売。仕掛け人も「本当に、アラビックリです」という商品だが、その誕生までには1年近くに及ぶ紆余曲折があった。

 開発したのは、「マジックインキ」(寺西化学工業)そっくりの「マジックふりかけ」など数々のコラボ商品を手掛けるヘソプロダクション(本社:大阪市)。稲本ミノル社長は「もともと、小さいころから蜂蜜に見えていたんですが、次するならヤマトさんのアレでしたいな、と。手も汚れないし、あのスポンジがいい感じにパンに塗れるのでは…と頭の中では完璧にシミュレーションできていました」と話す。

 昨年7月、満を持して製造元のヤマト(東京都)に企画書を送ったものの、当初は返事はなし。「やっぱり無理か…」と思っていた矢先、文具見本市の会場でたまたまヤマトの長谷川豊社長から声を掛けられ、ダメ元で企画を説明したところ「面白くていいんじゃない?」と好感触を得たという。

 この“鶴の一声”で、頓挫したかに見えた計画が復活。ただ、実際の商品化への道のりは険しかった。1975年の発売以来、半世紀近い歴史を持つアラビックヤマトの容器は、目に見えない細かな改良を続けてきており「気密性や均一に塗れるような浸透性などを高めてきた」(ヤマト担当者)というが、「楽しそうなお話だなと思う反面、私どもは文具メーカー。食品のことは全く分かりませんし、お客様に誤解を与えないかという懸念や不安が、正直、やはり大きかった」と明かす。

 それでも「絶対に同じ容器を使いたい」(ヘソプロ・稲本社長)という強い思いを受け、ヤマト側が容器を提供。へそプロダクション側で衛生処理はもちろん、蜂蜜を入れても材質に変化はないか、蜂蜜を入れて本当にきちんと出てくるのか―など入念に試験を繰り返した。さらに、デザインを損なわずに誤飲の危険を防げるよう「はちみつ」と記したり、市販ののりの容器は使えない等の注意書きを加えたりとパッケージの工夫も重ねた。「ようやく容器がクリアできたと思っても、次はこの容器に蜂蜜を入れてくれる業者を探すのに一苦労。本当は国産蜂蜜を―と思っていましたが、それだと販売価格が1本数千円ぐらいになって、到底買ってもらえない。産地を探し回り、カナダ産にたどり着きました」と話す。

 約1年にも及ぶ開発期間を経て、ようやく完成したものの、今度は新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われ、今年4月の発売予定が延期に。「売る場所もないし、コロナで工場自体もラインを縮小せざるを得ない。どうしたら…と悩んだんですが、在宅生活でパンは売れていると聞き、それなら自粛疲れで疲れていらっしゃる皆さんに、食卓で少しでも楽しんでもらえたら」と発売を決めたという。

 「実際に見てみると、蜂蜜と分かってはいても、なんとも言えず不思議な感じです」とヤマトの広報担当者。爆発的な売れ行きに稲本社長も「正直、自信はなかったのですが、まさかここまで売れるとは…」と驚きを隠さず「多くの方に受け入れて頂き、うれしいです」。ヘソプロには完売後も次回販売への問い合わせが相次いでいるといい、「緊急事態宣言の解除で生産体制が戻れば、店頭にも並べたい」としている。

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