休館中の映画館スタッフが短編映画を発表 人脈とノウハウ武器に挑んだリモート制作

黒川 裕生 黒川 裕生

新型コロナウイルスの影響で、5月16日現在も休館している神戸の元町映画館で働くスタッフが、長引く“巣ごもり”生活に業を煮やし、リモート短編映画「アワータイム」を作ってネット上で公開を始めた。先は見えないが、かといって家でやることもなく、ぼーっと日々をやり過ごしながら自責の念に駆られることもあった。そんな彼女も「映画制作を通して人の温かさやつながりをあらためて感じることができた」と、今の気分はちょっと上向きだ。

企画したのは神戸出身、在住の石田涼さんで、脚本も手掛けた。元町映画館では2年前からアルバイトで働き始め、昨年社員になったばかり。普段の業務は館内での受付や雑用が中心のため、休館になった4月15日以降は、仕事がほとんどなくなってしまったという。

「ミニシアターを救うためのクラウドファンディングに多くの支援をいただいたりしているのに、スタッフの自分が何もしていない。恥ずかしかったし、みじめでしたね」

新型コロナ禍で苦境にある映画業界だが、一方で、行定勲監督や上田慎一郎監督らがリモートで制作した短編映画をYouTubeで相次いで発表するなど今までにない動きも。石田さんが映画作りを思いついたのは、行定監督の「きょうのできごと a day in the home」を見て「このフォーマットなら自分にもできるかも」と触発されたからだという。

「映像系の専門学校出身なので、映画の作り方は一通り教わっていたんです。画角や照明の調整などには全く興味が持てなかったけど、シナリオ作りは好きで、授業にも熱心に取り組みました。『きょうのできごと―』のようにビデオ通話の画面だけで構成する作品なら、自分が興味を持てなかった部分をすっ飛ばした映画作りが可能だと思ったのです」

元町映画館を拠点に活動する学生グループ「映画チア部」にも声を掛け、日頃から親交のある俳優やミュージシャンに出演を打診。ラッパーのDEGさん、俳優の上野伸弥さんと津田晴香さん、バンド「3SET-BOB」のボーカルYUSUKEさんがオンライン飲み会で久々に“再会”する幼馴染の4人を演じ、映画チア部の大矢哲紀さんが監督を務めることになった。

【あらすじ】 オンライン飲み会で集まった幼馴染の男女4人。はじめは近況の報告やたわいもない話で盛り上がっていたが、突然そこに、見知らぬ人物が乱入。楽しかったはずのオンライン飲み会は予想もしなかった方向に転がっていく...。

企画を思いついてからYouTubeで公開するまでに要した日数は10日ほど。一時は真剣に仕事を辞めることまで考えていたという石田さんは「みんなでひとつの目標に向かっていくこの10日間は本当に楽しかった」と振り返る。「先が見えなくてつらいけど、もう考えても仕方がない」。深刻さの欠片もない軽妙な会話劇には、そんな思いも込めたそうだ。

映画館に対する兵庫県の休業要請は16日午前0時をもって解除された。各劇場ではこれから、再開に向けた準備が本格化していくとみられる。元町映画館で石田さんに会える日もそう遠くはないはずです。

■アワータイム https://youtu.be/DAkbwJwxyYs

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