新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛や休業要請が出される中、SNSでの中傷や、店舗、車両などに嫌がらせ行為をする人たちが「自粛警察」と称されて社会問題化している。4月末には都内で無観客の配信ライブをしていた休業中のライブバーに「自粛しなければ警察を呼ぶ」と記した紙が貼られていたことが、店主のツイッターによって明らかになった。コロナ禍の出口が見えない中、表現者の場を模索する飲食店主の思いを聞いた。
東京・高円寺で昨年4月にオープンしたバー「いちよん」で4月26日夜、無観客配信ライブ中に起きた出来事だった。
店内には出演者、店主の村田裕昭さん(41)と妻の計3人がいて、2メートルの「自粛棒」を使って三角形状態で互いの距離を取り、換気もして「3密」とならない細心の注意で撮影していた。同店は商店街から路地に少し入った古民家の2階にある。階段入口の路上に置いていた告知用の看板2つにA4サイズの紙が計3枚、のりやセロハンテープで貼られているのを近くの飲食店従業員が見つけ、2階に駆け上がって村田さんらに知らせたという。
貼り紙には「安全のために、緊急事態宣言が終わるまでにライブハウスを自粛してください。次発見すれば、警察を呼びます。」と3枚とも同じ文面が記され、「近所の人」という匿名だった。村田さんが27日未明、この貼り紙の画像と共に「世知辛い」などと思いをつづってツイートしたところ、5月2日時点で「いいね」7万5000件、リツイート約2万9000件と大きな反響があった。
村田さんは当サイトの取材に対して「『配信』というニュアンスが人によっては伝わりづらいから、もっと配慮してやるべきだったし、看板自体もなくてもよかったかもしれません」と冷静に振り返る。
その一方、村田さんは「こんなに『バズる』ことになり、テレビでも報道されて、貼った人からしたら逆効果になったのでは?『配信ライブは東京都のガイドラインに反していません』ということを知ってもらうきっかけになったし、うちはそれを広めるための役目を与えられたのかなという感じはします。犯人探しをするつもりもないですし、毅然とした態度でやっていくしかないのかなと。落ち込んでいてもしょうがない。いつも通りのいつもの自分で」と前を向いた。
同店は飲食をメインとし、ライブは土日祝日が多い。村田さんは「高円寺はアマチュアの方でも音楽で食べている人が多い。うちは演者にノルマがなく、今年2月以降は場所代も取らず、ライブでうちの取り分はゼロ。店内は多くて10席ほどで、お客さんと演者の距離が近い。いいライブだったら、お客さんが長居して演者さんと一緒にお酒を飲んだり、ご飯を食べてくださるというのがあるので、そこの力を信じようかなと。(ライブ自体の)もうけがなくても、この場所さえ維持できればという考えです」とスタンスを示した。
緊急事態宣言の期限だった6日まで休業予定だが、4日に延長が発表される見通しで、営業再開の先行きは見えない。5月の配信ライブの予定も白紙だ。
村田さんは「営業手段としての配信はライブハウスさんが力を入れているので、僕もそれをならってやっていけたらいいなと思いながら、まだ模索している段階です。まずは僕自身がライブ活動していたウクレレの演奏をしてみようかなと。今後はポエトリーリーディングやトークを主にした方がいいのかもしれません。ただ、これ(配信)で食っていこうとか、それはないですね。まず難しいだろうなという感触です」と明かす。
それでも、村田さんは飲食店経営の経験がなくオープンした時に掲げた「でもやるんだよ」精神を忘れない。「コロナで時代が完全に変わったと思う時があります。(今後のライブ形態として)自宅で演奏して歌い、配信する手段もあると思うんですが、それだけでは収まらない表現者のモチベーションがあると思う。こういう場所は、ないよりはあった方がいい。時代が変わっても、この店をやっていることに需要はあると僕は思っています」。人が集う「場」を取り戻せる日を見据えた。