ペットショップで右目をケガしたシーズー 退院後すぐに運命の出会い…ドッグカフェの人気看板犬に

岡部 充代 岡部 充代

 

 兵庫県芦屋市にある『ドッグカフェ彦~serendipity~』にはかわいい看板犬がいます。シーズーのべーちゃん。今年で7歳になる女の子です。

「こんな風にお客様にかわいがっていただけるなら、もっとかわいい名前にすればよかった」

 奥様の川本知子さんはそう言って笑いますが、べーちゃんだってかわいい!それに、先々代の愛犬・ベルディー君の愛称に由来しているのですから、思い入れもたっぷりです。

 

 川本さんとべーちゃんの出会いは、あるホームセンターのペット用品売り場でした。当時飼っていたパピヨンのウィン君にオヤツを買おうと出掛けたところ、壁に1匹の犬の写真が貼られていました。「ぶちゃいくだけどかわいいですね」。川本さんはそんな風に店員に話し掛けたと言います。すると、店員からは意外な言葉が…。「実は右目をケガして手術したんです。きょう帰ってきたばかりで裏にいるんですよ」。川本さんは思わず「見せてもらっていいですか?」と尋ねました。

「シーズーが好きな犬種というわけではなかったし、2匹目を飼うつもりも全くなかった。ただオヤツを買いに行っただけなのに、帰りにはヒザの上にいたんです」(川本さん)

 

 店名にある“serendipity”(セレンディピティ)とは「予測していなかった偶然によってもたらされた幸運」や「幸運な偶然を手に入れる力」などを指す造語。例えば、何かを探しているとき、その探し物とは別のもっと大事な物を発見することもセレンディピティの一つとされています。川本さんはこの言葉を大切にしていて、2018年10月に前オーナーからカフェの経営を引き継いだ際、もともとの店名のうしろに“serendipity”と付けました。

 べーちゃんとの出会いは、まさにセレンディピティそのもの。川本さんはさらに一歩進めて「すべてのことは偶然ではなく必然」ととらえており、べーちゃんとの出会いも必然だったと考えています。

 

 べーちゃんの右目はほとんど見えていないようで、急に手を出されるとビクッとしたり、振り返る角度によって何かにぶつかったりすることもあるようですが、成長してから突然、見えなくなったのとは違い、子犬のときからなので、獣医師からは「人間が思っているほど困ってはいないと思う」と言われています。店内に入ったとき、駆け寄ってくれるべーちゃんの動きからは、片目が見えていないとは想像もできません。ハンディがあることを感じさせない愛らしさで私たちを迎えてくれます。

 

 べーちゃんは開店時間に合わせて午前11時頃“出勤”。お客様と触れ合ったり、時にオヤツをもらったりしながら、看板犬としての役割を果たしています。最初は知らない人や犬がとっかえひっかえやって来る環境が怖かったのでしょう、オロオロして川本さんに抱っこをせがんだり、店の片隅に置かれたケージの中で気配を消すこともあったようですが、以前からの常連さんがべーちゃんのことを理解した上でかわいがってくれ、やさしく接してくれたことで、だんだんと慣れてきました。今もケージはべーちゃんが落ち着ける大切な“居場所”なので、中に入って休憩していることもありますが、来店者が増える14時~15時くらいになると、扉の前でお客様を待つようになります。そして、閉店時間の20時を過ぎると、川本さんと一緒に帰宅。「今日も一日お疲れ様」となるのです。

 

 看板犬は決して楽な仕事ではありません。ストレスを感じることもあるでしょう。でも、多くの人や犬と触れ合うことで成長し、今では初対面の人に甘えることも、ほかの犬と友達になることもできるようになりました。年末年始など長期の休みの間に川本さんがお客様の愛犬の名前を出すと、うれしそうに反応するそうです。川本さんとの出会いは、べーちゃんにとって間違いなく「セレンディピティ」でした。

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