新型コロナウイルスの感染拡大によって世の中が閉塞感に覆われた3月前半のこと。都内の地下鉄構内に貼り出されたポスターがSNSで話題になった。2013年に社会現象となったTBS系ドラマ「半沢直樹」の主演俳優・堺雅人が「あなたが、買い叩いているのは、この国の未来だ」といったコピーとともに、にらみを利かせている表情が人々の心を打ったのだ。この広告を発信した、経済産業省中小企業庁にその経緯や思いを聞いた。
ツイッターで話題になったきっかけは、作家・松崎有理さん(@yurimatsuzaki_n)の投稿だった。9日に「経済産業省のポスターのコピー 『あなたが、買い叩いているのは、この国の未来だ。』『その品質に、適正な対価を』が素晴らしすぎるのでそこら中に貼りまくってほしいと願う零細勤務+フリーランス」とツイートしたところ、30日時点で「いいね」が約4万5000件、リツイートが約2万5000件と大きな反響を呼んだ。
松崎さんのツイートに対し、「適正価格が維持されないと多くの政策が下請けイジメとして解消されてしまう」とポスターに同意するリプライがあれば、逆に「買い叩きの主体は政府としか思えません」といったツッコミも。考え方の違いはあれど、「自分の問題」と認識した人たちからの切実な声が投稿された。
中小企業庁は9日から15日までの1週間限定で、永田町駅など都内の地下鉄各駅約30か所で2種類のポスターを掲示。同庁の担当者は当サイトの取材に対して「下請中小企業などの取引適正化の推進を広く周知していく目的で、今春放映予定の『半沢直樹』とタイアップをさせていただき、昨年12月頃から新聞各紙の掲載などを行っております。(掲示は)より多くの方々に直接見て頂きたいとの思いで初めての取り組みとなりました」と経緯を説明した。
では、なぜ「半沢直樹」なのか。同庁の担当者は「銀行が舞台ではありますが、堺雅人氏演じる半沢直樹が常に持っている亡き父親の町工場で作られていた『ねじ』や、自らの信念を貫こうとする強い姿勢など、まさに日本を支えている中小企業の有する底力が表現されていると考え、堺氏の眼光鋭い表情と共にメッセージを加えたポスターを製作しました」と明かす。
くしくも掲載時は、コロナ禍で多くの事業者に経済的ダメージが及ぶ時期と重なった。
担当者は「新型コロナウイルスの拡大時と重なりましたが、その影響を意識して作成したわけではありません」としつつ、「大企業と比較して、資金や人員面などで、中小企業・小規模事業者は、経済状況の変化による影響を受けやすいのも事実であり、中小企業などが取引上で『不当なしわ寄せ』を受けないよう、様々な手段を用いながら、適正な取引の重要性を訴えていきたいと考えております」とした。
掲示は終了したが、課題は山積。経済対策が急務となっている。
「中小企業の方々は、大企業などとの取引において、取引の継続などを意識して、適正な取引価格などを主張しづらい現実があります。そして、今まさに起きている新型コロナウイルスの感染拡大の影響で経済状況が悪化している中では、中小企業の方々は一層厳しい状況に置かれています。このような危機的状況を乗り越えていくためにも、大企業と中小企業が対等な関係として取引を行えるよう、中小企業の方々が生み出す製品やサービスの価値を堂々と要求できる環境を整備していくことが国の役目であると思っています」
担当者は、そう総括した上で「様々な業種で日々行われている取引が、どちらか一方にしわが寄らず、適正な形で行われていくよう、中小企業の方々を応援していきます」と力を込めた。
「半沢直樹」の7年ぶりとなる新シリーズは4月から放送開始。コロナショックによる未曽有の経済危機を迎えようとしている局面での放送となる。2つのメッセージは現実の世界にも届くだろうか。