新型コロナウイルスの感染拡大を受け、その対策に向けた動きが活発になっている。ザインエレクトロニクス(本社・東京都千代田区)が提供している「サーモカメラシステム」もそのひとつだ。1セットで300万円ながら最大16人の顔認証と体温を瞬時に検知できる優れもの。経済活動を止めずに“水際対策”ができると期待され、オフィスビルやスタジアムなどで威力を発揮してくれそうだ。
何という早業だろう。ザインエレクトロニクス本社に設置されたデモ用の“関所”を通過すると、モニターに自分自身の姿が映し出され、顔の上に「36.0」の体温が瞬時に表示された。
時節柄平熱にホッとしたのはいうまでもないが、これは「サーモカメラシステム」と呼ばれる体温検知器。「同時多数者を非接触体温検知するAI顔認証ソリューション」として、この3月にザインエレクトロニクスのグループ会社キャセイ・トライテックから販売されており、コロナ対策として注目されている。
特徴はカメラやAIによる顔認証機能などを使い、最大16人の体温を同時に測定できること。しかも、所要時間は0.03~0.1秒というから驚きだ。これなら入場の流れを止めることもない。
従来のサーモグラフィー測定といえば、1人ずつというのがほとんどで時間が掛かっていた。このように大勢の人の流れを高速に処理することは困難だったが、それを可能にしているのが2眼式のカメラだ。
顔認識用のフルハイビジョンカメラと、体温を測るためのサーモグラフィカメラを備え、おでこに焦点を合わせている。だから熱い缶コーヒーを手にしていても、それに反応することはない。また、対象者がマスクを装着していても顔認識できるという。
さらに、熱計測の精度を高める工夫として「ブラックボディー」と呼ばれる基準の熱源装置を併用。そうすることで、誤差は±0.3度以下に抑えられている。
新型コロナにおいては、有効な治療薬やワクチンがないのが現状。感染症を防止しながら、いかに経済活動へのダメージを抑えるかが課題になっている。担当者は「(クラスター防止のため)人が集まりやすい場所では発熱者を早く発見し、分離させることが重要。このシステムなら顔認識もできるので発熱した人を特定し、追跡することもできます」と話す。
すでに、都内の高層オフィスビルや大手ゼネコンの建設現場などで導入されており、政府の専門家会議がひとつの基準としている37度5分以上に設定。対象者が通過した場合にはアラームが作動し入館、入場を制限する。担当者によると「オフィスビル以外にもホテルや病院。駅、空港の他に野球場やサッカー場などの大型競技施設からも問い合わせがきており、実際導入が決まっている」という。
このシステムは、もともと中国のAIスタートアップ企業・イートゥーテクノロジーが開発したもので、顔認証に関しては世界でも5本の指に入る技術集団。今年に入って、コロナ対策として中国で100万台、中国以外の国でも40万台の受注実績があるという。経済や余暇の活動を停滞させることなく、水際対策も期待できる。コロナ終息後も活躍の場はありそうだ。