致死性ウイルスを故意に感染させると殺人罪、殺人未遂罪の適用も

北村 晴男 北村 晴男

 愛知県蒲郡市で、新型コロナウイルスに感染した50代の男性が同市内の飲食店を2軒訪れ、「ウイルスをばらまいてやる」と発言して警察官が防護服を着て出動、保健所職員が消毒に追われる騒動に発展した。ネット上では「明らかな犯罪」との声が見られる。新型コロナウイルスに限らず、死に至るウイルスに感染していることを知って意図的に第三者に感染させた場合、法的責任はあるのか。日本テレビ「行列のできる法律相談所」に出演する北村晴男弁護士に尋ねた。

 北村弁護士によると、一般に、致死性の高い強毒性ウイルス保持者が第三者に故意に感染させた場合、殺人罪や殺人未遂罪の適用も考えられるという。新型コロナウイルスの場合、感染させた相手がかなり免疫力の低い人であれば、例えばすでに重篤な病気を抱えた高齢者であったなら「殺人の実行行為と言えなくも無い」と殺人罪や殺人未遂罪が適用される可能性がまったくのゼロではないとの見解を示した。殺人の実行行為とは、例えばナイフや銃弾で体の主要な臓器に大きなダメージを与えることがあげられる。

 感染させたときに確定的な殺意がなくても、未必の故意があれば同罪が適用される余地があるという。この場合の未必の故意とは「ウイルスを感染させてその結果、人が死んでもかまわないと考えていること」となる。

 他方、感染させた相手が免疫力が低下した人ではなく、健康であった場合は傷害罪の適用が考えられるという。判例上、同罪に言う「傷害」の定義は「人の生理的機能を害すること」とか、「人の健康状態を不良にすること」とされる。

 北村弁護士によると、ウイルス感染によって病気になり、せきや発熱といった症状が出ることもこれに当たる。つまり、故意に感染させて実際に発熱させたり、咳き込むような状態にさせれば傷害罪になり得る。

 ただ、いずれの場合も実際に立件するとなると感染ルートを明示する客観的な証拠が必要になる。

 世界中を恐怖に陥れている新型コロナウイルス。世界保健機関(WHO)は致死率は2%で、「重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)ほど致命的ではないとみられる」としている。

 「ウイルスをまいてやる」といった激情にかられて動くのではなく、冷静な対応が求められる。

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