給食の余ったパン・牛乳…持ち帰った教員は、どうして処分を受けたのか 疑問を堺市教委にぶつけてみた

平藤 清刀 平藤 清刀

「持ち帰り」と「食品ロス」は別の話

堺市教委の下した処分に対して批判的な意見には、「ルール違反」と「食品ロス」という本来は異なる話が一括りにとらえられている様子が伺える。余った給食を廃棄するのはもったいない。そう、確かにもったいない。だからといって公費で調達された給食を、無断で持ち帰って良いという話にはならないはず。

この事案が報道発表された昨年12月25日は、他に2件の懲戒免職事案があって、どちらかというとそっちが話の中心になっていたという。記者とのやり取りの中で「こんなこともありました」ということで給食を持ち帰っていた教師に懲戒処分が下された話が出たが、そのときはさほど深い話にならなかった。冒頭にも触れたように、ある芸能人のつぶやきが広がって「余った給食パンを持ち帰った教師が処分を受けた」という部分だけが取り上げられて、結果的に食品ロスの問題とリンクされて火が付いた格好になったのである。

男性教員の行為の何が処分対象になったのか

それでは男性教員は、どのような理由で減給3か月(10分の1)という懲戒処分を受けるに至ったのか、志波政宏さん(前出)に説明していただいた。

この男性教員は62歳。60歳で定年を迎えた後、65歳まで1年ごとに更新される再任用制度で任用されていた。

教員の懲戒処分を決めるにあたっては、外部の有識者を入れた審査会を設けている。そこでも様々な意見が出たという。

ひとつは、(リーガルチェックを経たうえで)「窃盗に当たるのではないか」という意見。余った給食は、分別・集積業務を委託された業者の従業員である用務員へ引き渡される。ゆくゆくはゴミ収集業者が回収のうえ廃棄されるけれども、学校の敷地内に保管されている間は学校長の管理下にある。そして用務員に引き渡された後でも、廃棄が完了するまでは学校長の管理下にあるとみなされ、所有権が空白になる期間は生じない。つまり所有権があるにもかかわらず勝手に持ち去った行為は窃盗に当たるだろうという見解だ。では「給食のパンを盗まれました」「牛乳を盗まれました」と警察へ届け出ても、廃棄される予定だから捜査の対象にならないのではないかという考え方もあって、ならば「占有離脱物横領」に当たるのではないかとの意見も出た。しかし学校の施設内で起こったことなので、それにも該当しない。ならば、やはり窃盗であり、公物の窃取は懲戒免職に相当するわけだが、そこまで杓子定規に断罪する感覚はおかしいという議論もあった。

この男性教員がそもそも何をやったのかといえば、以前から再三指導されていたルールを守っていなかった。「やってはいけないことをやった」という前提は絶対に崩れない。しかし「廃棄されるのがもったいなかった」という心情は分からなくはない。本人や家族で消費したといっているから衛生上の問題はともかく、教員としてルールの大切さを生徒に教える立場にあること、しかも給食指導担当という責任ある立場を軽んじたことを勘案して、減給3か月(10分の1)の処分となった。

一方、男性教員に協力した用務員はどうなっただろうか。

用務員は委託業者の従業員なので、教育委員会の監督下にない。「給食の衛生管理のうえで不適切な行為であったとして、雇用主から注意を受けたと聞いています」(志波氏)。そして今も勤務を続けているという。

給食はどうしても余る。今後の取り組みは?

学校給食だから、生徒の人数分だけ発注すれば余らないはずだが、そう単純な話ではないらしい。定時制高校の特性として、生徒は昼間働いた後登校してくる。ときに仕事の都合で欠席したり、いつのまにか登校してこなかったりする生徒もいる。過去には、発注数を抑えたために足りなくなって、教員が近くのコンビニまでパンを買いに走ったこともあったという。だから「足りないよりマシ」と、数量に余裕をもって発注されていた。その一方で、給食が多く余らないようにする努力は、以前からなされていた。昨年6月に匿名の告発を受けてからは、給食の発注が以前にもまして厳正に行われるようになり、ロスは確実に減っているという。

前もって生徒から喫食確認させればどうかという案が出たこともあったが、生徒が代金を自己負担するわけではないので、キャンセルしても損をしない気楽さがある。

結局、給食の余りをゼロにすることが難しい以上、いかに無駄のない処理をするかが今後の課題だ。有効な再利用方法については、様々な角度から検討されている最中である。

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