1匹の子犬が救った何匹もの命 家族として過ごした8カ月が夫妻に与えた影響

渡辺 陽 渡辺 陽

ご主人の仕事の都合でバリ島に移住した加納夫妻。ある時、家の駐車場に迷い込んできた1匹の子犬と出会う。ぱんくんと名付けた犬は、夫妻がバリ島で犬の保護活動をするきっかけになり、多くの犬が救われている。

 

駐車場に迷いこんできた子犬

ご主人の仕事の都合で、日本からシンガポールに移り住み、多忙な日々を送っていた加納さん夫妻。ご主人は休む間もないほど仕事に明け暮れていた。バリ島で仕事をしないかという話があり、夫妻は、もう少しリラックスした暮らしが送れるのではないかと、2015年秋、バリ島に移住した。

 「バリ島に行けばのんびり暮らせる」、そう思った加納夫妻だが、ぱんくんという犬を保護したのをきっかけに犬の保護活動をすることになり、仕事というわけではないが、忙しくしているという。

 加納夫妻がバリ島に移住してから半年後の2016年3月24日、ぱんくんは家の駐車場に迷いこんできた。まだ子犬だったぱんくんは、ひどい皮膚病と栄養失調で衰弱していた。しかし、健気に加納さんを見上げる瞳は、とても可愛らしかった。

 バリ島の犬事情は「昭和の日本のよう」

加納さんによると、バリ島の犬事情は、「昭和の日本のようだ」と言われることがあるそうだ。基本的に犬は外で飼うのが当たり前になっていて、放し飼いされている。首輪をつけている犬もいない犬もいて、首輪をつけていても既に飼い主から捨てられている犬もいる。外国人など、何も知らない人が見ると、飼い犬なのか野良犬なのか分からないのだという。放し飼いでなくても、小さなケージに閉じ込められて、太陽が照り付ける屋外に放置されていたり、短い鎖につながれたまま生涯を終えたりすることもある。家の中で犬を飼っているひとも毎日散歩に連れて行く人は少ない。きちんとリードをつけて、飼い主と共に散歩している犬を見かけることは珍しいのだという。

狂犬病フリーではないので、狂犬病の犬もたくさんいる。

バリ島では、ぱんくんのように犬が敷地に迷いこんできても不思議ではない。

加納さんのご主人は、日本の実家で犬を飼っていたが、奥さんは動物を飼うのは初めてで、犬と触れ合った経験もほとんどなかった。しかし、ぱんくんの弱々しい姿を目にした瞬間、夫妻は何の迷いもなく、動物病院に連れて行った。ぱんくんは緊張していた。獣医さんによると月齢3~4カ月だった。

はじめて与えた食べ物がパンだったので、ぱんくんという名前にして、家族にした。

 保護してから8カ月でお空へ

ぱんくんは、最初は遠慮がちだった。「家の中に入っていいよ」と言っても、出入り口のあたりでとまどっていた。数日経つと、だんだんなじんできたが、まだまだ戸惑いを隠せず、少し不安げな様子を見せた。ただ、自分が「ぱん」という名前だということは理解したようだった。

「ぱんは、とても賢い子で、教えたことはすぐに覚えてくれました。教えたわけではないのですが、家の中ではトイレをせず、庭に出てしてくれました」

 すっかり加納家の子になったぱんくん。

「たくさんの温かい時間をもたらしてくれて、いつしか私たち夫婦にとってなくてはならない存在になったんです」

 しかし、家族になって8カ月後、2016年11月、ぱんくんは急病で亡くなった。

「ほんの短い期間でしたが、ぱんとは、とても濃密な時間を過ごすことができて、私たち夫婦がバリ島で保護活動を始めるきっかけになりました」

夫妻は、ぱんくん亡き後も、たくさんの犬を保護、獣医さんや地域住民の協力も得て、不妊手術を行うイベントを開き、通算約100匹の手術を完了させた(取材当時)。

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