世界遺産の島で保護されたワイルドな黒猫 今では飼い主を玄関までお出迎え

佐藤 利幸 佐藤 利幸

神奈川県在住の小野さんは「1匹でも多くの動物が幸せになるために自分にできることは何だろう」と日々考えていた。2018年、都内の動物病院で行われた猫の譲渡会に参加した。そこで大柄でどこかさみしそうな表情をした1匹の黒猫と出会った。頭をなでると、目を閉じてゴロゴロと喉を鳴らした。東京から約1000km離れた小笠原諸島の大自然の中で生まれた猫だった。

推定年齢1歳ながら体重5kgと大柄、真っ黒な毛に覆われ、黒ヒョウのような鋭い目つきをしていることからなかなか飼い主が見つからなかった。野性味あふれるこの黒猫は2017年に小笠原の母島・万年青浜(おもとはま)で保護された。野生化した猫によって消滅寸前となった海鳥を守るため、小笠原動物協議会が主体となって事業を進めている「小笠原ネコプロジェクト」の取組で保護にいたった。保護当時はかなり噛みついて抵抗したため、革の手袋が欠かせなかった。

希少鳥獣等の保全のための集落・農地のネコ対策

2011年に日本で4番目となる世界自然遺産に登録された小笠原諸島。1999年から小笠原村の環境衛生の保持と自然環境の保全を目的に、全国初となる小笠原村飼いネコ適正飼養条例(ネコ条例)を運用している。飼いネコの飼養登録などによる把握・管理やマイクロチップの装着などの適正飼養を推進するとともに、集落・農地にいるノラネコの把握・対応を行うことで、希少鳥獣等の保全の取組を進めている。

心を開くようになった黒猫を「キング」と名付け

小野さんは譲渡会で出会った黒猫を2018年6月、家に迎えた。迎え入れた当初は用意したトイレの中でうずくまったまま動かなかった。2日が経過してようやく警戒心が薄らいだのか、水を飲み始め、ドライフードも食べるようになった。小野さんは早く家に慣れるように、黒猫の隣に座り、ずっとなでていた。そんな愛情が伝わったのか、黒猫は心を開くようになった。見た目の恰好良さから黒猫を「キング」と名付けた。

今では小野さんが仕事から帰宅するとソファで寝ているキングは「ニャー」と鳴きながらお出迎えのため玄関まで小走りで駆け寄ってくる。おやつの準備を始めると近くにやってきて座り、まん丸な目で静かに待っている。黒ヒョウのような目つきはすっかりなくなっていた。ボールを転がすと器用にボールを返したり、投げると両手でキャッチして遊ぶなど家猫ライフを満喫している。キングはすくすくと育ち、体重は7kgまで増えた。

キングを引き取って半年後、小野さんの祖父が他界した。その後「気のせいかもわかりませんが、その頃から祖父の大好物であったエビ・カニ・ホタテ味のちゅーるを好んで食べるようになったり、ソファに座ってついているテレビをながめたり、祖父を思わせるようなゆったりした行動をとるようになりました」(小野さん)と不思議な縁を感じているという。

大自然の中で育ったワイルドなキャットは、「初めて猫を飼ったので最初は分からないことだらけ。保護主だった動物病院の先生に相談させていただいた」という小野さんの家で、都会の生活を楽しんでいる。

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