ひとまず信用組合の窓口で書ける書類だけ片づけて、実印が要る書類はいったん持ち帰って出直すことにした。
面倒だが仕方がない。母に委任状を書いてもらって、印鑑登録をするためだけに区役所へ走る。そしてまた、印鑑登録を申し込む書類に氏名と住所を書くはめになるのである。
手続きは滞りなく済んだが、印鑑登録証明書はその場ですぐ出せないらしい。代行で手続きをした場合、確かに自分の意思で登録したことを確認する書類を本人へ郵送するから、それを区役所へもってきたら交付するという。その際にも、あらためて母の委任状が必要とのことで、多くの時間と手間を浪費することになってしまった。
郷里の戸籍謄本も必要に…
さらにもうひとつ、問題が発生していた。父が生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本が必要なのだ。父の郷里は福岡なので、大阪へ移り住む二十歳までの戸籍謄本と附票(改正原戸籍・改正原附票)を福岡から取り寄せる手続きをしなければならない。
60年以上も前の戸籍が残っているのか一抹の不安を抱えながら、福岡市役所に電話で問い合わせる。すると相続手続きで必要なのは「改正原戸籍」と「改正原附票」というもので、保存期間が150年だと聞いて安心した。遠隔地への交付手続きは、先に手数料として定額小為替と父の情報をなるべく詳細に送れば良いとのこと。手数料がいくらになるかは手続きをしてみないと分からないらしく、とりあえず5000円分を送った。結果的に手数料と郵送料をあわせて1000円ほどで済み、余った分の定額小為替と改正原戸籍の謄本と附票が一緒に送り返されてきた。この手続きで、さらに1週間ほどを要した。
幸い、父に隠し子はおらず、相続手続きを再開する。結局、信用組合の窓口へ全ての書類を提出し終えるまでに1カ月ほどかかった。そのあと本店での精査を経て「相続手続き終了のお知らせ」が届いたのは、最初に支店の窓口を訪れてから約2カ月後のことである。
噂には聞いていたが「遺産相続」の煩雑さは、まさに想像を絶する。当事者になってはじめて分かった。遺産が多かったら、報酬を支払ってでも専門職に頼みたくなる気持ちがよく分かる。